世界の排外主義:その根底にあるものとは?経済的要因だけでは説明できない複雑な実態

グローバル化が加速する現代社会において、排外主義は世界的な問題となっています。経済的な不安定さや移民の増加などがその原因として挙げられることが多いですが、実際にはもっと複雑な背景が存在します。この記事では、排外主義の真の要因を探り、その実態に迫ります。

経済的要因だけで説明できるのか?

移民の増加による雇用機会の減少や賃金低下は、排外主義の温床となるという見方が一般的です。しかし、近年の研究では、経済的な要因だけでは排外主義の広がりを十分に説明できないことが明らかになってきています。

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例えば、中井遼氏の著書『欧州の排外主義とナショナリズム―調査から見る世論の本質』では、統計分析に基づき、排外主義の広がりは経済的要因よりも文化的態度といった非経済的要因の影響が大きいと指摘されています。所得水準や雇用状況、年齢、性別などの違いに関わらず、排外主義的な傾向を持つ人が存在するというのです。

日本の研究でも同様の傾向が見られます。『ネット右翼とは何か』(樋口直人ほか著)や『日本は「右傾化」したのか』(小熊英二、樋口直人編)などでは、正規雇用者や経営者といった層に排外主義的傾向が強いことが示されています。

文化的態度と排外主義の関連性

では、非経済的な要因とは具体的にどのようなものでしょうか。2015年のポーランドの総選挙を例に見てみましょう。「法と正義」という政党は、難民問題を争点化し、難民が病気を持ち込む、移民はポーランドの文化を尊重しないといった恐怖心を煽るキャンペーンを展開しました。このケースでは、経済的な理由は前面に出ていません。

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このように、文化的背景の違いや価値観の衝突に対する不安感が排外主義につながるケースも少なくありません。移民や難民に対する「異質なもの」という感覚が、排外主義的な感情を増幅させていくのです。

グローバリズムと排外主義

ヨーロッパでは反EUの動きが反移民と結びつく傾向がありますが、EUのような枠組みがないアメリカや日本では、反グローバリズムという形で排外主義が表出することがあります。グローバリズムが移民の増加やLGBTQ問題、ワクチン接種などを引き起こす悪の根源だとする主張です。

しかし、グローバリズムとは何かを具体的に定義することは難しく、陰謀論と結びつきやすい側面があります。ユダヤ人や国際金融資本、ディープステートなどがその黒幕として槍玉に挙げられることもあります。

政治への関心と排外主義

興味深いことに、『欧州の排外主義とナショナリズム』では、政治に無関心な層よりも、政治への関心が高い層に反移民の主張が見られるという指摘もされています。日本の反移民感情が欧米ほど強くないのは、国政選挙の投票率の低さと関係しているのかもしれません。

歴史修正主義と排外主義の結びつき

EU加盟国では、ヨーロッパの歴史と自国の歴史を結びつける試みが行われてきましたが、反EUの声が高まるにつれ、自国中心的な歴史修正主義が台頭しています。アメリカや日本でも、陰謀論と結びついた歴史修正主義が排外主義と手を組んで広がりを見せています。

排外主義は、経済的要因だけでなく、文化的態度、グローバリズムへの反発、政治への関心、歴史修正主義など、様々な要因が複雑に絡み合って生じる現象です。その根底にあるものを理解し、多文化共生社会の実現に向けて、冷静な議論と建設的な取り組みが求められています。