フリーアドレスの功罪:本当に「新しい働き方」なのか?

フリーアドレスは、オフィスで固定席を持たず、自由に席を選べるワークスタイルです。コロナ禍で急速に普及し、自治体でも導入されるなど、現代の「新しい働き方」の象徴として注目されています。しかし、そのメリットの裏側には、様々な課題も潜んでいるようです。この記事では、フリーアドレスのメリット・デメリット、そして専門家の意見を交えながら、その実態に迫ります。

フリーアドレスのメリットとデメリット

フリーアドレスのメリットとしてよく挙げられるのは、コミュニケーションの活性化やスペースの有効活用です。日々異なる人と隣り合うことで、新たな交流が生まれ、部署間の連携が強化されるといった期待があります。また、不在者の席を活用することで、オフィススペースの効率的な運用も可能になります。

オフィスでのフリーアドレスオフィスでのフリーアドレス

しかし、現実には「引き出しがないため、いちいちロッカーに荷物を取りに行くのが面倒」「どこに誰が座っているか分からず、訪問の際に困る」といった声も聞かれます。さらに、「席選びがストレスになる」「荷物をどかされて席を取られる」といった問題も発生しているようです。

固定席化のジレンマ

「フリーアドレスなのに、自分の固定席のような場所があって、そこに人が座るとモヤッとする」という意見も少なくありません。早い者勝ちのシステムにも関わらず、「私の席です」と貼り紙をして席を確保し、私物を置きっぱなしにする“固定席化”現象も起きています。

「私の席です」の貼り紙「私の席です」の貼り紙

最先端の働き方と思われていたフリーアドレスですが、Amazonが2024年に廃止を発表するなど、固定席への回帰の動きも出てきています。

専門家の見解

フリーアドレスに対する疑問の声は、専門家からも上がっています。山田進太郎D&I財団COOの石倉秀明氏は、「フリーアドレスでコミュニケーションが活性化する」という考え方は、「みんながコミュニケーションを取りたがっているという陽キャの発想」であり、現実に即していないと指摘しています。

山田進太郎D&I財団 COO 石倉秀明氏山田進太郎D&I財団 COO 石倉秀明氏

東京大学大学院経済学研究科の稲水伸行准教授も、フリーアドレスを導入した企業でコミュニケーション活性化の効果が見られないケースがあると指摘。部門を超えたコミュニケーションの意義が従業員に浸透しておらず、結局は自分の席を確保することに注力してしまうと分析しています。

石倉氏はさらに、経営陣が「偶発的なコミュニケーション」を過大評価し、新しい発想が生まれない責任を従業員に押し付けている可能性を指摘。「本来変えるべきは会社側の意思決定プロセス」だと述べ、経営陣の安易な思考に懸念を示しています。

フリーアドレスの未来

フリーアドレスは、導入にあたって綿密な計画と運用、そして従業員への丁寧な説明が不可欠です。単に制度を導入するだけでなく、企業文化や従業員のニーズに合わせた柔軟な運用が求められます。真に効果的な「新しい働き方」となるためには、更なる検討が必要と言えるでしょう。