江蔵智さん(66歳)は、1958年に都立産院で生まれた際に他の新生児と取り違えられたとして、東京都に実親の情報開示を求める訴訟を起こしました。4月21日に判決が言い渡されるこの裁判は、出自を知る権利をめぐる重要な争点を含んでいます。この記事では、江蔵さんのこれまでの道のりと裁判の争点、そして今後の展望について詳しく解説します。
取り違え発覚までの長い道のり
江蔵さんは幼い頃から親戚に「両親と顔が似ていない」と言われていましたが、愛情深い家庭で育ちました。しかし、46歳で受けたDNA鑑定で、育ての両親と血縁関係がないという衝撃の事実が発覚。2004年に東京都を提訴し、一審・二審ともに取り違えの事実は認められましたが、実親の情報は得られませんでした。
江蔵さんと代理人弁護士
再び法廷へ―出自を知る権利を求めて
2021年、江蔵さんは再び東京都を提訴。実親に関する情報開示を求め、損害賠償1650万円を請求しました。争点は、東京都に実親調査の義務があるかどうか、そして「出自を知る権利」をどこまで保障すべきかという点です。
国際人権条約と専門家の見解
1月20日の裁判では、青山学院大学法学部の申惠丰教授が証人として出廷。「出自を知る権利」に関する国際人権条約の観点から、東京都が調査を行うべきだと主張しました。申教授は、日本も批准している「自由権規約」や「子どもの権利条約」に基づき、江蔵さんのケースは国が身元情報回復を図るべき状況に該当すると説明。東京都の「プライバシー侵害の恐れ」という主張に対し、人権侵害の深刻さを理解していないと反論しました。
江蔵さんの切実な願い
本人尋問で江蔵さんは、真実を知った時の衝撃を「頭の中が真っ白になり、心に大きな穴があいたようだった」と語り、実の両親や兄弟に会いたいという切実な思いを訴えました。
幼少期の江蔵さん
弁護団の主張と今後の展望
原告代理人は、国際人権条約は国内法に優先して適用されるとし、東京都には情報開示の義務があると主張。具体的な開示手続きも提案し、第三者の権利にも配慮した内容だと説明しました。判決は4月21日に言い渡されます。この裁判は、江蔵さんにとってだけでなく、同様の境遇にある人々にとっても大きな希望となる可能性を秘めています。
出自を知る権利―私たちにとっての課題
江蔵さんのケースは、私たちに「出自を知る権利」の重要性を改めて問いかけています。血縁のつながりを知ることは、個人のアイデンティティ確立に深く関わっています。この裁判の行方が、今後の社会における「出自を知る権利」の保障にどのような影響を与えるのか、注目が集まります。