思わず足を止めて眺めてしまうような、街中にある少し変わった形をした物件ーー。
いったいなぜ、そのような形になったのか。そこには、どんなドラマがあり、どのような生活が営まれているのか。
連載「『フシギな物件』のぞいて見てもいいですか?」では、有識者や不動産関係者に話を聞き、“不思議な物件 ”をめぐるさまざまな事情に迫る。
【50枚の写真を見る】扉の向こうにも圧倒される美しい空間。風呂やトイレ、リビングなど不思議な空間が広がる
【後編を読む】1億で作った「三田のサグラダファミリア」驚く事態
■聖坂の先に突如現れるフシギな家
東京・港区三田。三田駅を降りて慶応義塾大学三田キャンパス方面へと歩く。三田3丁目の信号を渡った先の聖坂をのぼっていく。
さすが東京のど真ん中、瀟洒(しょうしゃ)な高層ビルがそびえ立つ。しかしビルの周辺は更地となり、殺風景だ。
そんな何もない場所に、工事用のパネルがずらっと並んでいた。そのパネルの向こう側には、ポツンと1軒、フシギな建物が立っていた。
地面からコンクリートがむくむくと湧き上がっているようなエネルギッシュな外観。コンクリートの鋭い塊が突き出ていたり、建物に亀裂が入ったかのように見える窓があったり、はてしなくフシギな雰囲気が漂う。背後にある200mを超える高層ビルと比べると、アンバランスな存在感だ。
この建物の名は「蟻鱒鳶ル(ありますとんびる)」という。
着工から約20年の時を経て、2024年秋、シートや足場が外されその姿が現れた。「ついに完成?」と話題を呼び、観光スポットのように人が集う。
蟻鱒鳶ルとはどんな建物なのか。内部はどのようになっているのか。この建物を手がけた建築家の岡啓輔さんを訪ね、扉の向こう側へと足を踏み入れた。
早速中に入ると、そこには外観とはまた異なるフシギな世界が広がっていた。
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蟻鱒鳶ルは、40平米ほどの土地に立つ、地下1階地上4階の鉄筋コンクリート造のビルである。建築面積は25平米弱で、延べ床面積は100平米ほど。両隣にマンションが立つ狭小地に、2005年に着工した。現在は周辺一帯で市街地再開発事業が進められている。
■重厚なコンクリートの世界
まずは階段を下りて地下へ。そこはコンクリートに包まれた静謐な空間だ。壁に触わるとひんやり冷たく、気持ちいい。中にしっかり詰まっているような重厚さを感じる。