米野球殿堂はシアトル・マリナーズなどで活躍したイチロー選手の殿堂入りを1月21日(現地時間)、発表した。米野球殿堂入りはアジア人としては初であり、同日、マリナーズはイチローの背番号51を永久欠番とすると発表した。
3000本安打を達成し、262安打というメジャーリーグシーズン最多安打記録を保持するなど、文句のつけようのない記録を達成しての殿堂入りであった。ただ、イチローがメジャーリーグで活躍し、米国で受け入れられるかについては、当初は多くの人々が疑問視していた。
ベースボールと野球の違い
イチローがメジャーリーグに移籍した2001年当時、日本人メジャーリーガーはまだ数少なく、その中心は、野茂英雄をはじめとして投手であった。なぜ日本人メジャーリーガーは投手ばかりなのか、と問う中学生の質問に対して当時の新聞は、メジャーリーグの選手は投手も野手もでかいが、日本のプロ野球では投手はたいてい大柄だが、野手は「俊足好打」が多いとして、パワー重視の大リーグと、守り重視の日本野球というようにベースボールと野球の性格の違いから説明している。
そのため、野手として海を渡ろうというイチローに、日本人野手が通用するのかについては懐疑的な見方も多く見られた。米国人ジャーナリストで、『菊とバット』と題する著作など、野球を通じて日米比較文化論を論じることで有名なロバート・ホワイティングも、「イチロー君、大リーグは甘くないぞ」と題する論考を『文藝春秋』2000年12月号に寄せて、イチローがメジャーリーグでは通用せず、メジャーリーグに挑戦したことを後悔するようになるだろうと予言した。
移籍先となるマリナーズの地元シアトルでは、長年マリナーズで活躍し、サイ・ヤング賞も受賞した長身の名投手ランディ・ジョンソンの背番号51を受けつぐとあって、ジョンソンを汚すものであるとの批判もあった。
衝撃だったMLBデビュー年
イチローが米国で通用するかについての否定的な意見は、むしろ日本人の間に多く見られた。イチローの体格が日本のプロ野球においても抜きん出ていたわけでもないこともあり、イチローのようなタイプの選手がメジャーリーグで通用するのだろうかと疑問が呈された。
移籍が報じられるや、日本のマスコミは、「パワーがない」、「不安視されるのはやはり体力面」、日本食を好んで好きなものばかり食べているから、遠征ばかりのメジャーリーグでは難しいのではなどと否定的な言葉であふれた。また、ホームランバッターでなく、地味な内野安打などを多く打つイチローのスタイルもダイナミックなメジャーリーグでは受け入れられないのではないかという声も大きかった。
しかし、2001年のシーズンが始まるとイチローは、開幕戦から先発出場し、2安打1得点の活躍を見せた。イチローはその後も活躍を続けたが、それは打撃面にとどまらず、「レーザービーム」として知られる送球や、盗塁など走攻守すべてに及んだ。ホームラン数こそ多くないものの、イチローは米国野球ファンの間で大人気となり、その年のオールスターゲームでは、1位の得票数で選ばれている。
結局、この年は移籍初年度にもかかわらず、メジャーリーグ新人最多安打記録となるシーズン242安打を放ち、打率3割5分で首位打者、盗塁、シルバースラッガー賞、ゴールドグラブ賞と数多くの賞を受賞した。新人王とMVPの同時受賞は、他に例が一つあるだけの快挙であった。あの大谷翔平ですら、最初のシーズンは新人王は獲得しているがMVPは獲っていない。