「社会と戦ったりするより、人間として幸せになってほしい」両親の反対、妹との決裂、それでも伊藤詩織が会見を開いたワケ


【写真】この記事の写真を見る(2枚)

 ジャーナリストの伊藤詩織氏が監督を務めた「Black Box Diaries」が、2025年1月、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞の候補になった。同賞のノミネートは、日本人では初めて。

 ジャーナリストの伊藤詩織氏が元TBS記者の山口敬之氏から性暴力を受けたとして損害賠償を求めた裁判は、2022年7月、高裁に続き最高裁も「同意のない性行為」だったと認定し、山口氏に対し332万円の賠償命令を下した。一方で、事件後に伊藤氏が公表した内容の一部が名誉毀損などに当たるとして、伊藤氏に55万円の支払いを命じた。

 合意があったとする山口氏の供述は最終的に「信用できない」と退けられたが、ここへ至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。

 性暴力被害者を取り巻く日本の現状に迫った伊藤詩織氏の著書『 Black Box 』より一部を抜粋。伊藤氏が初めて実名と顔を公表して、事件についての会見をするまでの経緯とその影響を紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

初出:文春オンライン 2022/03/08

◆◆◆

「週刊新潮」の記事(編集部注:伊藤さんが匿名で事件の日のできごとを語った記事)をきっかけに、事件は大きく動いた。しかし、記事の方向性は、必ずしも私が望んでいたものと同じではなかった。確かに山口氏の人脈と逮捕が止められたこととの関連は、この事件の根幹の一つだ。繰り返すが、その一端が明らかになったことには感謝している。

 しかし、あくまでも私が伝えたかったのは、被害者が泣き寝入りせざるを得ない法律の問題点や、捜査、そして社会のあり方についてだ。なぜこの話をするのか、それを記事の終わりに入れるという約束のもとに、私は取材に協力したのだ。

 私の伝えたかったことがたくさんの人に届いたとは、まだ言えなかった。



Source link