中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法


<長時間に及んだフジテレビの記者会見で、幹部たちは「中居正広は何をしたのか」という核心部分への明言を意図的に避けた。それは結果的に真相を覆い隠し、加害者を利することになっている。だが、被害者を守りながら真実にたどつく方法はあるはずだ>

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女性の保護、被害者のプライバシー、刺激しない、守秘義務……。フジテレビの会見を見て分かったことは、「加害者は被害者を利用する」ということだ。「プライバシーを悪用する」と言ってもいい。被害者のプライバシーを盾として使い、自己保身に走る。中居正広もフジテレビ幹部も、その点は完全に同じだった。

中居正広は被害者に対して、何をしたのか。幹部たちは最後まで明言を避けたが、全体的な文脈から考えて、被害者視点では性加害があったと考えるよりほかない。ただ、自分たちがそう明言して良いかどうか、幹部たちはひどく迷っているようだった。

もちろん、性加害があったかどうかは現時点では断定できず、疑惑の段階だ。加害者という表現も被害女性に寄り添った言い方であり、刑事的な意味まではない。だが、疑惑であることすら明言を避ければ、結局は中居正広の「罪」を覆い隠し、利することになってしまう。

では、どうしたら良いのか。

今、私たちがすべきことは、もし本人が話したいなら、被害者に声を取り戻させることである。言い換えれば、自由に発言できる状態にさせるということだ。

被害女性はこれまでも週刊誌の取材に応じているが、中居正広が何をしたかという核心部分には一切触れていない。双方の交わした示談書のなかに守秘義務、すなわち口外禁止条項が盛り込まれているからだろう。中居正広もまた、守秘義務を盾に一切の説明責任を放棄し、私たちの前から逃げてしまった。

中居正広が具体的に何をしたかについて被害女性が声を上げれば、示談書の口外禁止条項に違反するだろう。そうなれば、中居正広は被害女性に対し損害賠償を求めるかもしれない。訴訟になれば、裁判所も一定金額の損害賠償を認めざるを得ないだろう。だが、それが何だというのだ。

もし女性に損害賠償請求がされるなら、このコラムを書いたライターとして、あるいは中居正広を持ち上げ巨万の富をもたらしてしまった元ファン(カラオケでSMAPの曲を歌うだけの薄いファンではあったが)の1人として、私は金銭的な協力をしたい。

そして、私と同じように被害女性に課せられた賠償金を「少しぐらいなら払ってもいい」と思える人が10人、20人、あるいは100人、200人と集まれば、口外禁止条項など怖くないはずだ。中居正広が被害女性に賠償金を要求するのであれば、それは私たちが弁護士費用も含めて全額肩代わりすれば良い。いや、肩代わりする義務がある。法的な義務はないが、道義的な義務がある(あるいは、フジテレビこそ肩代わりすべきかもしれないが)。

現実的には、中居正広が損害賠償まで請求するとは考えにくいが、「身銭を切ってでもあなたを守る」という世論が背景にあるだけで、彼女の精神的負担はかなり軽くなる。そもそも、「トラブル」の存在が明らかとなった今となっては、口外禁止条項の不履行によって生じる賠償金は、それほど大きくならないのではないか。

■被害者が「匿名」を求める理由

会見では、「被害者のプライバシー」を盾に明言を避けるシーンや、音声を消す場面が目立った。それらは本当に被害者のプライバシーのためだったのか。当日は、フジ・メディア・ホールディングスの事実上のトップであり今なお隠然たる権力を有する日枝久取締役相談役の欠席が、今のフジテレビの置かれた状況の異様さを物語っていた。

フジ幹部が何度も「被害者を刺激したくない」と言っていたのは、心の底では本当は「日枝さんを刺激したくない」、「中居さんを刺激したくない」と思っていたからではないか。実際、そう読み替えるとフジ幹部の発言はきれいに辻褄が合う。

性被害に遭った者が「匿名」を求めるのはごく当たり前だ。残念ながら、現在の日本社会は被害者に対する差別が横行している。ネット世界は言うまでもないが、現実社会のなかでも被害者は色眼鏡で見られ、生活にさまざまな不都合が生じてしまう。性被害が特に顕著だが、他の犯罪被害も同様だろう。

理想論を言えば、私はいつか性被害にあった人間が実名で被害を公表しても、何一つ不利益を受けることのない世の中になればいいと思っている。勇気のある人間しか被害を言い出せない今の世の中は、おかしいのだ。

とはいえ、現状では被害者は匿名でなくてはさまざまな差別や誹謗中傷を受けることになり、不利益が生まれる。悲しいことではあるが、被害者の匿名性を守ることは絶対に必要だ。

だが、「匿名なら自分の受けた被害を語ってもいい」と考える人は、少なからず存在する。実際、新聞テレビなどでも匿名であれば報道されるケースが多い。

今回の事案で言えば、被害女性が「私は匿名であっても、何をされたか言いたくない。世の中の人に何も知って欲しくない」と望むのであれば、私たちは真相を知ることをあきらめなくてはいけない。だが、「匿名性が担保されるなら、中居正広が私に何をしたのか知って欲しい」と思うのであれば、その声を聞かなくてはいけない。被害者の発言権を、取り返さなくてはいけない。

中居正広は金の力に物を言わせて、被害女性の口を塞いだ。ならば、その呪いを解くことができるのは、やはり金の力である。だとしたら、その金は私たちが用意しなくてはいけない。なぜなら、中居正広は「国民的アイドル」という権力者だったのだから。

■声を上げる自由を奪うな

今後、第三者委員会が事実確認のため、弁護士を介して被害女性と接触するかもしれない。その聞き取りの際に、中居正広が被害女性に対してかけた呪い、すなわち口外禁止条項が枷になってはいけない。「示談書で約束したので言えません。本当は言いたいけど、言えません」ということは、あってはならない。

暴論だろうか。

フジ幹部たちは、自分たちにとって都合の良いときだけ「被害者のプライバシー」を連呼し、盾に使った。『まつもtoなかい』という冠番組を続けたのは「被害者を刺激しないためだ」と言いながら、一方で特番に中居正広を出し続けた。加害者に王冠をかぶせ続けた。

特番で起用しテレビ画面に露出させることのほうが、被害者にとってずっと大きなストレスになりそうなものだが、フジ幹部たちはそう思わなかったのだろうか。彼らの思考回路は、支離滅裂に見える。

今後、第三者委員会によって色々なことが明らかになるよう願うばかりだが、そのためにはまず、中居正広がかけた呪いを解かなくてはいけない。

日本人は「約束」に厳しい。示談書の取り決めを破るのは不道徳であり正しくないと思うかもしれない。だが、中居正広はそんなことよりはるかに不道徳で非人道的なことをしたかもしれない。少なくとも、金の力で被害女性の口をつぐませた(そうとしか見えない)のは、卑劣としか言いようがない。その金は、元はと言えば私たちの声援によって生み出されたものだ。

そもそも示談に応じなければ良かったと言う人もいるだろう。だが、心身に傷を負いながら権力者にたった1人で立ち向かうことは、とてつもない困難だったに違いない。早く終わらせたいと思って示談に応じたのなら、私は何も責める気になれない。

被害女性が口外禁止条項を破って損害賠償請求された場合には、どうか皆様も金銭的なサポートを手伝ってもらえないだろうか。そして、被害者に声を上げる自由を取り戻させて欲しい。真実にたどりつくには、それしか道がない。

西谷 格(にしたに・ただす、ライター)



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