だからコメの値段が下がらない、下げるつもりもない…JA農協のために備蓄米を利用する農水省の呆れた実態


【図表】コメ価格の推移。いまが異常に高いことが一目でわかる

■いまのコメ価格は史上最高水準

 新米が出回ってもコメの価格が高止まりしている。このため、江藤拓農林水産大臣は、1月24日閣議後の記者会見で政府備蓄米を条件付きで販売できるようにする考えを明らかにした。

 JA農協が卸売業者に販売する「相対価格」と呼ばれる米価(2024年産)は、60キログラム(一俵)当たり2万4665円(24年12月)にまで高騰している。高米価を批判された食糧管理制度時代の米価、なかでも冷害による大不作で平成の米騒動と言われた際の米価をも上回る過去最高水準だ(1993年産の不作を反映した94年の政府買い入れ価格は1万6266円、自主流通米価格は2万3607円)。

 昨年夏にコメ不足が問題になる以前から、農林水産省とJA農協が農家に減反を強化するよう指導していた。このため、2021年産1万2804円、22年産1万3844円、23年産1万5306円となり、10年ぶりの高米価となっていた。それから、現在の水準に高騰するまで、農林水産省は何も対策を講じてこなかった。

 図表1で「政府買入価格」とは、食糧管理制度(1995年廃止)によって政府が農家から農協を通じて買い入れる際の価格(最高値は95年の2万0976円)、「自主流通米」とは、政府を通さないで農協が卸売業者に販売するもので、政府米よりも品質の良い米(したがって政府米の価格よりも高い)である。コシヒカリなどの良質米はほとんど自主流通米として流通した。その価格は、「全国米穀取引・価格形成センター」で値決めされたものである。

 2005年、全農秋田県本部により、このセンターを利用して子会社である販売業者との間で架空取引を行い、米価を高く操作した事件が起きた。その後、JA農協は同センターを利用するのをやめ、コメの高い集荷力を利用して米価に影響力を行使するため、卸売業者との相対取引に移行した。このため、同センターの利用は激減し、2011年3月廃止された。しかし、同センターに関する規定は、今でも食糧法(「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」)に残っている(第18条から28条)。

 農家にとってはリスクヘッジの機能を持つ先物市場も、2005年から商品取引所により創設の要請が行われてきたにもかかわらず、価格操作ができなくなるJA農協の反対により実現せず、24年8月になってコメ指数先物に限り認められることになった。特定の産地銘柄の先物取引は認められていない。野菜や果物については、卸売市場で公正な価格形成が行われる。しかし、主食のコメについては公正で適正な価格形成を行う市場は存在しない。

■米価を上げたい農政トライアングル

 今回の備蓄米の放出も、農林水産省が自発的に行ったとは思えない。そうなら、同省はJA農協や自民党農林族の反感を買うからだ。

 農林水産大臣は記者会見で、「生産者の方々にとっては、やはり備蓄米を出すことになれば、せっかく米価が高いところまで上がってきて、生産コストを賄え、将来に明るい兆しができた。そこで、国が在庫を出すことについては、反発もあるかもしれません」と述べている。

 農林水産省、JA農協、自民党農林族の農政トライアングルは、現在の異常な高米価を望ましいと考えているのだ。価格が上がると、零細な兼業農家でも利益が出るようになる。兼業農家の収入(給与所得を含む)は、JAバンクに預けられ、JA農協の繁栄を支えてきた。

 しかしこのことによって、農地の集約は進まず、非効率な兼業農家が残留し、国民は高いコメを買い続けることになっている(参考記事〈「農家の高齢化で、日本人に餓死の危機」はウソである…専門家が「むしろ農家はもっと減らすべき」と説くワケ〉)。国民・消費者は、彼らの眼中にはない。おそらく米価高騰に何も対策を講じない農林水産省の対応が政権運営に支障を生じると考えた石破首相以下の官邸が、同省に備蓄米放出を指示したのではないかと思われる。



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