仏教界の性加害「告発」宗派内でタブー扱い、関係者ら“沈黙”のワケ 現役僧侶が指摘する「構造的問題」の内情


天台宗の“組織”図

伝統仏教の信用を失墜させる異例の事態であるにもかかわらず、各仏教宗派、全日本仏教会などの仏教関係団体・関係者は本件にほぼ言及していない。XやYouTube等で精力的に「仏教の布教」を行っているアカウントも、不気味なほどこの事件に触れていない。

叡敦さんの会見後、筆者が「なぜ仏教関係者は言及しないのか」とSNS上に投稿したところ、僧侶たちから寄せられたのは「こちらにも言えない事情がある」といった反応だった。また、筆者自身も寺の出身であることを公表しているが、「これ以上この件をネットで言うな」「実家や父親がどうなってもいいのか」といった“忠告”もさまざまな僧侶から寄せられた。

彼らはなぜ、異例の事態を前に沈黙を貫いているのか。そこには、日本の仏教界が抱える構造的な問題がある。内部から見た事情について、天台宗の関係者が取材に応えてくれた。(倉本菜生)

僧侶たちが「発言できない」理由

実際に叡敦さんの会見後、この件についてニュースを拡散する僧侶はごくわずかだった。小野さんは、この件が宗派内でタブーとして扱われ、僧侶同士の会話でもまったく話題に上がらない背景には、宗派に対する「忖度」以上に「保身」があるのではと指摘する。

「各宗派には『規定』という法律のような規則があるのですが、上に逆らって事件に言及すれば『教えを乱した』『本来の布教活動と異なることをした』などと、宗規を理由に僧籍をはく奪されてしまうかもしれない。そうなれば、世襲で僧侶になった人にとっては、今まで自分が生きてきた世界からの追放になってしまいます」

さらに小野さんは、僧侶には自身の仕事や生活に関わるさまざまな「しがらみ」があり、それが自由に発言できない足かせになっていると説明する。

「まずは自分の師匠。世襲の場合、親が師匠になります。弟子が何かやらかすと、師匠の出世や評判に関わってくる。弟子本人が直接注意されることは少なく、師匠経由で忠告がいきます。世間が宗派をどう見ているかということよりも、師匠の顔色を伺う僧侶のほうが多いのです」

次に「お寺そのもの」もネックになっているという。

「お寺は住職個人の所有物ではなく、本山から管理を任されて預かっているものです。そのお寺を管理する僧侶が問題を起こせば、お寺を追い出されるか、最悪の場合、僧籍はく奪になります。そしてもっとも大きなしがらみが“親戚関係”です」

寺院の住職同士が親戚関係にあることは珍しくない。そのため、ある寺院(A寺)に問題が発生すると、その親戚関係にある別の寺院(B寺)にも「同じ一族だから信用できない」「〇〇系は問題が多い」といった否定的な見方が広がりやすい。師弟関係ほどの影響力はないものの、親族関係が寺院の評判に影響を与えるのだ。

「自分が何かすれば師匠の立場が危うくなる。親戚関係も責められる。最悪の場合、自分も住職を解任される。叡敦さんの事件に関して、積極的に取材を受けていた僧侶の方がいました。その方は在家(一般家庭)出身で、世襲の私たちほどしがらみはないはずですが、それでも上から相当言われたという噂を聞きました」

筆者のもとに寄せられた「黙っていろ」という忠告も、発言者側はあくまで本気で心配しているのだろう。しかし世間から見れば、それは「脅し」に映ってしまう。



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