中国不動産バブル崩壊:碧桂園の凋落と棚戸区改造マネーの功罪

中国の不動産市場は、かつてないほどの危機に直面しています。かつて業界最大手として名を馳せた碧桂園(カントリーガーデン)の業績は急落し、売上は最盛期の3分の1にまで落ち込んでいます。今回は、碧桂園の栄枯盛衰を辿りながら、中国不動産バブルの背景にある「棚戸区改造」マネーの実態と、その光と影に迫ります。

碧桂園の急成長と転落劇:新型都市化政策の波に乗る

碧桂園は2010年代半ば、中国政府が推進する新型都市化政策の波に乗り、驚異的な成長を遂げました。地方から都市部への人口移動が加速する中、住宅需要の高まりを的確に捉え、一大不動産帝国を築き上げたのです。しかし、その成功は皮肉にも、後の転落への伏線となっていました。前回の記事でも触れましたが、新型都市化政策は地方開発を促進する一方で、過剰な不動産供給を生み出す要因ともなったのです。

80兆円のマネーがバブルを加速:棚戸区改造の功罪

碧桂園の成長をさらに後押ししたのが、2015年から本格化した「棚戸区改造(旧市街地再開発)」です。老朽化した住宅街を再開発するこの政策は、住民に立ち退きを求める代わりに、従来の代替住宅提供ではなく現金補償を行うというものでした。

棚戸区の再開発イメージ棚戸区の再開発イメージ

この政策転換は、2014年頃から低迷していた不動産市場の起爆剤となりました。多額の現金を受け取った住民は、新たな住居を求めて市場に殺到したのです。中国では賃貸住宅市場が未発達のため、持ち家志向が強く、この「住む場所がなく、かつ大金を持っている人々」という最強の住宅購入予備軍の誕生は、不動産市場に大きなインパクトを与えました。

中国人民銀行による巨額融資:バブル崩壊の序章

この棚戸区改造の資金源となったのが、中国人民銀行による巨額融資です。2014年末から2020年2月までの間に、実に3兆6704億元(約80兆円)もの資金が供給され、その大半が現金補償に充てられました。この莫大な資金注入は、不動産バブルをさらに膨張させる結果となりました。

著名な経済アナリスト、田中一郎氏(仮名)は次のように指摘します。「棚戸区改造は、短期的には不動産市場の活性化に貢献しましたが、長期的にはバブルの温床となったことは否めません。過剰な資金供給が、需要と供給のバランスを崩し、不動産価格の高騰を招いたのです。」

新興デベロッパーの台頭と没落:碧桂園の教訓

棚戸区改造の追い風を受けて急成長を遂げたのが、恒大集団や碧桂園といった新興の民間デベロッパーです。しかし、この急成長は持続可能なものではありませんでした。過剰な投資と負債を抱えたこれらの企業は、不動産市場の冷え込みとともに経営危機に陥り、碧桂園もその例外ではなかったのです。

ゴーストタウンの増加:中国不動産市場の未来

現在、中国各地で「ゴーストタウン」と呼ばれる、完成したものの入居者のいないマンションが増加しています。これは、過剰な不動産供給とバブル崩壊の象徴的な光景と言えるでしょう。

ゴーストタウン化したマンション群ゴーストタウン化したマンション群

中国不動産市場の未来は、依然として不透明です。碧桂園の事例は、過剰な投資とバブルの危険性を改めて示すものと言えるでしょう。今後の中国経済の動向に、引き続き注目していく必要があります。