高額療養費の制度改正により、自己負担限度額が段階的に引き上げられることになった。『医療費の裏ワザと落とし穴』291回では、70歳未満の人の改正のポイントを解説。実際に自己負担分はどれだけ変わるのかを、所得区分ごとに1カ月100万円かかった場合で独自試算した。(フリーライター 早川幸子)
● 25年8月〜27年8月にかけて 段階的に限度額が引き上げられる
「高額療養費のおかげで、医療費が100万円かかっても、患者は30万円支払うわけではない」
これまで、筆者はこのような文章を書いて高額療養費の説明をしてきた。だが、今回の制度改正によって、2026年8月以降はこのフレーズを使うことができなくなった。
なぜなら、自己負担限度額の引き上げによって、高所得層のなかには医療費が100万円になっても高額療養費が適用されず、通常通りに3割(70歳未満の場合)の自己負担分を支払わなければならない人が出てくるからだ。
今回の制度改正で、私たちの医療費負担はどのように変わっていくのか。高額療養費の見直しについて、2回に分けて解説していきたい。まずは、70歳未満の人の改正について詳しく見ていこう。
高額療養費は公的医療保険の給付の一つで、福祉元年と言われた1974年に導入された。高度な治療を受けて医療費そのものが高額になっても、1カ月に患者が支払う医療費の自己負担分に上限を設けることで、家計に過度な負担がかからないように配慮した制度だ。
医療費が一定額までは通常通りに、年齢や所得に応じた自己負担割合(1〜3割)を支払うが、その上限を超えた部分の医療費については、負担が軽減される仕組みになっている。
この高額療養費の自己負担限度額が、2025年8月から段階的に引き上げられることになったのだ。
● 前回の「高額療養費」の見直しは10年前 所得に応じて5段階に分類
前回、高額療養費の見直しが行われたのは15〜18年にかけてで、それから10年が経過している。この間に国の社会保障政策は、年齢に関係なくすべての国民が経済的な負担能力に応じて支え合う「全世代型社会保障」の構築を目指すものへと転換している。
また、経済環境の変化によって、15年に30万4000円だった一般労働者の賃金は、23年には31万8300円へと増加している(厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」)。
これらを理由に、23年12月に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」に、患者が支払う高額療養費の自己負担限度額を見直すことが盛り込まれ、25年からの引き上げが決定した。
25年1月現在、70歳未満の人の高額療養費の自己負担限度額は、下表のように所得に応じて5段階に分類されている。この所得区分の細分化と限度額の引き上げが、25年8月〜27年8月にかけて段階的に行われることになった。
たとえば、所得区分が「ウ」(年収約370万〜約770万円)の人の25年1月現在の自己負担限度額は、【8万100円+(医療費の総額-26万7000円)×1%】。26万7000円までは3割を負担するが、この基準額を超えた部分の医療費ついては1%だけ支払えばよい。
医療費が100万円かかった場合は、高額療養費適用後の患者の自己負担額は8万7430円。さらに、高額療養費の適用対象となった月が、過去12カ月間に3回以上あった場合は、4回目から「多数回該当」という制度が適用される。所得区分が「ウ」の人は自己負担限度額が4万4400円になり、長期療養者の負担は軽減される。
高額療養費によって患者の負担は一定限度に保たれるので、今後も際限なく医療費がかかるという心配はない。だが、今回の見直しによって、25年8月以降は患者の負担はこれまでよりも増加する。