中国の海洋進出は、近年ますます活発化しています。東シナ海、南シナ海、そしてインド洋に広がるその動きは、国際社会の関心を集めています。一体なぜ中国はこれほどまでに海洋進出にこだわるのでしょうか?経済発展と安全保障という2つの側面から紐解いてみましょう。
経済発展:沿岸部の繁栄と「世界の工場」化
鄧小平による改革開放政策以降、中国経済は目覚ましい発展を遂げました。外資系企業の進出により、安い労働力と巨大な市場を武器に「世界の工場」へと変貌。世界中に「メイド・イン・チャイナ」製品が溢れるようになりました。
この経済発展の中心となったのが、沿岸部の港湾都市です。海上貿易が生み出す富を求めて、内陸部から多くの人々が沿岸部へと移住。中国史において、沿岸部がこれほど重要性を増した時代はかつてありませんでした。従来の中華思想では中原(黄河の中流域)が中心でしたが、現代中国においては沿岸部が経済的中心地となっています。
alt="中国沿岸部の港湾都市の活気あふれる様子"
経済的中心地の脆弱性:新たな課題
しかし、この沿岸部の集中は、中国にとって新たな課題も生み出しました。人口の3分の1以上、GDPの7割以上が集中する沿岸部は、まさに中国経済の心臓部。その脆弱性は、中国の安全保障戦略に大きな影響を与えています。
安全保障:失うものの増大と海洋戦略
冷戦時代、毛沢東は「三線建設」という国防計画を構想していました。これは、国土を3つのラインに分け、工業力を内陸部に分散させることで、外敵の侵攻に備えるという戦略です。
しかし、現代中国ではこの戦略はもはや現実的ではありません。経済の中心が沿岸部に移動したことで、中国はかつてないほど「失うもの」を抱えることになったのです。
第一列島線:新たな防衛ライン
中国の専門家は、現代中国の安全保障戦略について次のように述べています。「改革開放を経て、中国はもはや貧しく失うもののない国ではない。国富の多くは東部に集中しており、この地域を守るために新たな防衛ラインが必要だ。それが第一列島線である。」
つまり、中国にとって海洋進出は、経済発展を支える沿岸部を守るための、新たな安全保障戦略の一環と言えるのです。
alt="地図上に示された第一列島線"
経済と安全保障のジレンマ
中国の海洋進出は、経済発展と安全保障という2つの要素が複雑に絡み合った結果です。経済発展の果実を守るために海洋進出を強化する一方で、その行動が国際社会との摩擦を生み、新たなリスクも抱えるというジレンマに直面しています。今後の中国の海洋戦略は、東アジアひいては世界の安全保障に大きな影響を与えることは間違いありません。