政権交代に伴う人員整理はよくある話ですが、トランプ前大統領が推進した連邦政府職員への大規模退職勧奨は、その規模と方法において異例と言えるものでした。2024年1月、最大2万5000ドルの奨励金を提示し、軍人や郵便局員などを除くほぼすべてのフルタイム職員に退職を促したこの施策は、果たして成功と言えるのでしょうか?本記事では、この大規模退職勧奨の背景、リスク、そして成功例を交えながら、その功罪を検証します。
優秀な人材流出の懸念
民間企業では、希望退職を募る際に割増退職金や退職手当などを用意するのが一般的です。しかし、トランプ政権の勧奨は、最も優秀で市場価値の高い人材が真っ先に退職してしまうリスクを孕んでいました。人事コンサルティング会社セガル・グループのアリソン・ヴァイヤンコート副社長は、「優秀な人材が流出すれば、組織を前進させる人材が不足する」と指摘しています。 これは、イーロン・マスク氏がTwitter(現X)買収後に行った人員整理と類似しています。マスク氏は厳しい勤務条件を受け入れるか、退職金を受け取って去るかを迫り、結果的に一部の人材を再雇用せざるを得ない状況に陥りました。
alt=イーロン・マスク氏とTwitterロゴ
手厚い退職金で成功を掴んだ人材
一方で、手厚い退職金を受け取った後に大成功を収めた例も存在します。1981年、ソロモン・ブラザーズがフィブロと合併した際、マイケル・ブルームバーグ氏は1000万ドルの退職金を受け取り、その後世界的なメディア帝国を築き上げました。現在、ブルームバーグ氏は世界有数の富豪として知られています。
大規模人員削減の失敗例
しかし、大規模な人員削減が必ずしも成功するとは限りません。音楽ストリーミングサービスSpotifyは、2023年12月に全従業員の17%を解雇しましたが、その後の業績は低迷し、CEOは人員削減が日常業務に悪影響を及ぼしたことを認めました。
トランプ政権の施策の問題点
民間企業では、早期退職は特定の部門や職種に絞って行われることが多いですが、トランプ政権の施策は部門や役職を問わず、幅広い職員を対象としていました。南カリフォルニア大学で公共政策を専門とするウィリアム・レシュ准教授は、この施策を「過去1世紀で最大かつ最も広範な政府職員の再編成」と評し、トランプ政権が連邦職員を単なるコストと捉えていた可能性を指摘しています。特定の省庁や職種に絞ったプログラムを実施しなかった理由は不明ですが、共和党が支配する議会が削減対象を確定させるまで待つ方が、重要な人材を失うリスクを軽減できた可能性があります。
まとめ
トランプ政権の大規模退職勧奨は、優秀な人材流出のリスクと隣り合わせの施策でした。一部の成功例はあるものの、大規模人員削減が企業業績に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。今回の施策が最終的にどのような結果をもたらすのか、今後の検証が必要と言えるでしょう。