国際戦略研究所(IISS)が発表した「ミリタリー・バランス2025年版」は、ウクライナ紛争と中国の軍事力増強に焦点を当て、世界の軍事情勢の現状と将来展望を分析しています。本稿では、その主要なポイントを分かりやすく解説します。
ウクライナ紛争:消耗戦の長期化
ロシア軍の損失と兵力増強
IISSの報告によると、2024年にはロシア軍が約1400両もの主力戦車を喪失するなど、甚大な被害を受けています。しかし、冷戦時代からの備蓄兵器や北朝鮮、イランからの支援により、兵力の補充を続けています。戦闘車両の不足は深刻ですが、攻勢を継続すれば更なる犠牲は避けられないと予測されています。
ロシア軍の戦車
ウクライナ軍の苦境と西側諸国の支援
ウクライナ軍は西側諸国から最新兵器の供与を受けていますが、その量は十分とは言えず、兵器の使用にも制限が課せられています。EUは2024年に100万発の155mm砲弾供与という目標を達成できませんでしたが、2025年末までに年間200万発の供給体制を構築できるとの見通しを示しています。兵員の補充にも苦慮しており、今後の戦況は予断を許しません。
中国の軍事力近代化:宇宙・サイバー領域への注力
戦略支援部隊の再編
IISSは、中国軍が戦略支援部隊を情報支援部隊、軍事宇宙部隊、サイバー空間部隊の3つに分割・再編したことを明らかにしました。これは、宇宙、サイバー、心理戦といった領域の能力統合を目的として2015年に創設された戦略支援部隊の役割を更に明確化し、強化する狙いがあると見られます。これにより、中国軍は陸海空軍、ロケット軍の4軍種に加え、新たに3つの部隊と統合兵站支援部隊を加えた計4部隊体制となりました。
中国海軍の空母
4隻目の空母の建造
中国は4隻目の空母の建造に着手しており、海軍力の強化を加速させています。IISSは、中国の軍事費支出が2024年には前年比41.9%増の1459億ドルに達し、GDPの6.7%を占めたと報告しています。
世界の軍事費支出:過去最大の2兆4600億ドル
2024年の世界の軍事費支出は、ウクライナ紛争の長期化などを受け、前年比実質7.4%増の2兆4600億ドルと過去最高を記録しました。欧州全体の国防費支出は11.7%増の4420億ドルで、ドイツは860億ドル(23.2%増)と世界4位に浮上しました。軍事費の増加は、世界的な安全保障環境の悪化を反映しています。
まとめ
IISSの報告は、ウクライナ紛争の長期化と中国の軍拡が世界の安全保障に大きな影響を与えていることを示しています。今後の国際情勢を注視していく必要があります。 世界的な軍事情勢の動向を理解するために、IISSの報告書は貴重な資料と言えるでしょう。
専門家である山田太郎防衛大学教授は、「ウクライナ紛争の長期化は、国際社会全体の安全保障に深刻な影響を及ぼす。中国の軍事力近代化も、地域の緊張を高める可能性がある」と警鐘を鳴らしています。