静岡県伊東市の田久保真紀市長が、自身の学歴詐称疑惑を巡り辞任を表明した。しかし同時に、市民の信を問うとして再び市長選挙に立候補する考えを明らかにし、波紋を広げている。市議会で全会一致の辞職勧告決議を受けた上での辞任決定だが、その後の「出直し」立候補宣言は異例の展開と言えるだろう。伊東市広報誌にも掲載された「東洋大学法学部卒業」という最終学歴が、実際には「卒業」ではなく「除籍」だったと告発された問題に対し、当初は「怪文書」として否定していた市長だが、後に事実と認めた。それでも詐称ではないと主張し、「偽物」と指摘される自身の“卒業証書”については、公職選挙法違反での刑事告訴を踏まえ、静岡地検に証拠として提出する意向を示している。会見では、報道陣からの“卒業証書”の開示や比較といった提案は、代理人弁護士と共に全て拒否され、入手経路についても「記憶が曖昧」として詳細を明かさなかった。
会見に見た意図と前回の選挙戦
全国紙の社会部記者からは、市長の会見には意図的な「違和感」があったとの指摘が出ている。記者は、肝心な疑惑に関する部分は「調査を委ねる」と繰り返し論点をずらしながらも、市長選への再出馬に関してはカメラをまっすぐ見据え、強い意思表示を行った点に注目。まるで疑惑の追及よりも、禊は済んだとして「再出発」をアピールするための場に見えたという。さらに、謝罪や釈明の場面で通常選ばれる黒色ではなく、ピンク色のジャケットを着用していたことから、すでに市長の「前向き」な気持ちが表れていたのではないかと見ている。
学歴に偽りがあったとされる問題はあるものの、田久保市長は本年5月に行われた伊東市長選で14684票を獲得し初当選を果たしたばかりだ。2期8年を務めた前市長、小野達也氏を破っての勝利だった。前回の市長選では、約42億円を投じる予定の新図書館建設計画の是非と、市議時代から田久保氏が継続的に反対運動を展開し、訴訟にまで発展していた市内での大規模太陽光発電所(メガソーラーパーク)建設計画が大きな争点となっていた。前市長の小野氏も、2017年の初当選時からメガソーラー計画自体には反対姿勢を示していたが、翌年には「許可要件を満たしている」として事業許可を出しており、この「ダブルスタンダード」とも取れる市政運営が市民の怒りを買い、「新しい風」を求める民意を田久保氏が掴んだ形だ。
伊東市 学歴詐称疑惑で辞任表明した田久保真紀市長 会見
再出馬の勝算と今後の展望
前回の市長選で小野前市長は「無所属」を標榜していたものの、実質的には自民党・公明党の推薦を受けての出馬だったとされる。2023年の市議選で最下位での当選だった田久保氏が、前市長との一騎打ちで勝利できたのは、ひとえにメガソーラー反対派の市民を味方につけることに成功したためだと言える。
このような実績があるからこそ、田久保市長には再選される「勝算」があっての辞任・再出馬表明なのではないかとの推測もなされている。あるいは、自身が尽力してきたメガソーラー反対運動が今回の騒動によってメディアに取り上げられ、全国的に注目されることになれば、たとえ自身が再選されなくとも、別の有志がその活動を引き継いでくれることを本望としているのかもしれない。再び行われることになった伊東市長選で、市民が願うのは、今度こそ「まともな候補者」が登場することだろうか。この異例の政治劇の行方が注目される。