北朝鮮では2023年末、国営企業や公務員の賃金が大幅に引き上げられました。なんと、年初に比べて約10倍という破格の増額です。同時に、労働者本人には7~10日分の食糧配給も行われました。一体何が起きているのでしょうか?今回は、北朝鮮の賃上げの実態、そして金正恩政権の真の狙いを探ります。
10倍増でも350円程度?北朝鮮の賃金事情
北朝鮮の労働者が犬を連れている様子
アジアプレスの調査によると、2023年12月時点で、咸鏡北道と両江道の公務員、鉱山労働者、工場労働者などの賃金は以下の通りでした。
- 公務員:3万5000~5万ウォン
- 教員:3万8000~5万ウォン
- 国営企業の一般労働者:3万5000~5万ウォン
- 年老保障(退職者の年金):2万5000ウォン
当時のレートで1000ウォンは約17円。つまり、月給は日本円にして約600円~850円程度。10倍増とはいえ、依然として低い水準です。2024年2月時点でも、この賃金水準は維持されているとのこと。他の地域でも同様の賃上げが行われていることが確認されています。
国家主導の賃上げ:その背景にあるもの
北朝鮮の決済カード「全盛カード」
これらの賃金は、基本的には国家によって支払われています。収益に応じて上乗せする企業もあり、企業間で待遇の差が生じているようです。中には、追加勤務や成果に応じてボーナスを支給する企業も出てきているとのこと。
経済専門家(仮名:李経済氏)は、「今回の賃上げは、経済制裁の長期化やコロナ対策による経済の停滞で疲弊した国民生活の改善を図る狙いがあると見られます。同時に、労働意欲を高め、生産性向上を促す効果も期待できるでしょう。」と分析しています。
キャッシュレス化進む北朝鮮:決済はカードで
賃金の支払いは、ほとんどが決済カードで行われるようになりました。個人の銀行口座や企業が発行したカードに入金され、国営商店や市場などで利用できます。
両江道の住民からは、「現金を使う機会が減った。電話料金の支払いもカードでできる」という声が聞かれました。しかし、地方の農村部では、電力供給が不安定なため、決済カードの普及は進んでいないようです。
北朝鮮政府は、将来的に全ての取引をキャッシュレス化することを目指しているようですが、インフラストラクチャーの整備など、課題は山積みです。
金正恩政権の真の狙い:経済活性化への布石か?
今回の賃上げと食糧配給は、国民生活の改善だけでなく、市場経済の活性化を促す狙いもあると考えられます。賃金の上昇は購買力の向上につながり、市場での取引を活発化させる可能性があります。
しかし、経済制裁の影響は依然として大きく、生産性の向上や経済の根本的な改善には、さらなる改革が必要となるでしょう。金正恩政権の経済政策の行方からは、今後も目が離せません。