中国の習近平国家主席が香港特別行政区の林鄭月娥行政長官と会談した。6月に香港で抗議デモが本格化した後、初のトップ会談である。
習氏は、更迭説も流れた林鄭氏に強い信任を与え、香港での「暴力と動乱の制止と秩序回復」が最重要任務だとした。
自由と民主を掲げる香港市民の抗議を「暴力と動乱」と切り捨てるとは、あまりにも粗暴な認識である。香港で格段に弾圧が強まることを警戒すべきだ。
10月末に開かれた中国共産党の中央委員会総会(4中総会)は、国家統治を強力に引き締める方針を決議した。
香港に関して、決議は国家の安全維持を強調し、「法律制度と執行メカニズム」の整備を打ち出した。法治に名を借りて弾圧を強化する方針の表明といえる。
中国では法治の上位に共産党の指導がある。法は党が政策を実行するための手続きにすぎない。普遍的な「法の支配」を前提とする民主主義国の価値観とは根本から異なるのである。
「一国二制度」の下、香港ではかろうじて三権分立が維持されてきた。1997年の主権返還後には、国家分裂活動などを禁じた香港基本法23条に基づく治安法規の制定が議論されてきたが、これも世論の反発で見送られてきた。
それが4中総会の決議を受けて立法化に動くことはないか。中国本土のような、人権を無視した治安法規の制定と執行を香港に持ち込ませてはならない。
香港の行政長官について、任免制度の「改善」を示唆する発言も中国の法制責任者から出た。
行政長官は親中派優位の組織による間接選挙で選ばれてきた。中国はこれに飽きたらず、選任制への移行を視野に入れたのではないか。「普通選挙」(直接投票)を求める香港の民意と逆行する発言は、混乱をさらに深めよう。
林鄭氏は、中国政府で香港問題を主管する韓正副首相とも北京で会談した。相次ぐ高位会談で中国は香港問題の前面に出てきた。国際社会は、中国による介入の阻止に向けて声を高めるべきだ。
訪中したマクロン仏大統領は習氏との会談で、香港での「段階的な緊張緩和」を繰り返し迫った。安倍晋三首相も中国の李克強首相に香港情勢への「憂慮」を伝えたが、これでは腰が引けている。何を中国に遠慮しているのか。