安倍晋三首相が経済対策の策定を指示した。年末にかけて令和元年度補正予算と2年度当初予算を一体的に編成して裏付けとする方針だが、一段と高まる歳出圧力を受け、経済成長と財政健全化のバランスをどう取るのか、難しいかじ取りを迫られそうだ。財政規律の緩みが意識されれば、令和7年度に国と地方の「基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)」を黒字化するとしている政府の財政健全化目標の達成にも懸念が強まりかねない。
消費税増税を控えて編成された元年度当初予算は、通常分に増税の影響を和らげるための対策が加わったことで、一般会計総額が過去最大の101兆4571億円と当初予算で初めて100兆円の大台を超えた。
2年度当初予算も、社会保障費や防衛費などの増加を背景に、各省庁が8月末に提出した概算要求の総額は一般会計で104兆9998億円と、元年度当初予算の要求総額を上回り2年連続で過去最大。今回、経済対策を取りまとめる方針が決まったことで、2年連続で100兆円を超える公算が大きくなっている。
ただ、日本は増大する歳出を税収だけで賄えていない。元年度当初予算でも税収や税外収入がカバーできたのは歳出全体の約3分の2に過ぎず、残りの約3分の1は借金に頼っている。
2年度は、今年10月の消費税増税による税収の伸びが通年で見込まれ、財政健全化には追い風といえる。ただ、読みにくい海外発のリスクが顕在化し日本経済にも悪影響が波及すれば、税収は下振れを余儀なくされる。約3年ぶりの経済対策は、こうしたリスクへの「予防的対応」といえる。
PBは財政の健全性を図る指標の一つ。内閣府が7月に発表した中長期の財政試算では、高い経済成長率が続くケースでも、今後の歳出改革を織り込まなければ、政府が黒字化を目指す7年度は2兆3千億円の赤字が残るとした。7年度のPB黒字化は以前から、民間エコノミストの間で「極めて難しいのではないか」といった声が少なくない。
大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「国内景気が大幅に悪化するような状況ではない上、消費税増税の影響も見極めがついていない段階で、先行きに危うさを感じたらすぐに財政出動をするといった姿勢が今後も続けば、『当初予算で盛り込まなくても補正予算でやればいい』といった形になり、財政健全化の取り組みも黄色信号が灯りかねない」と話している。