人生の節目には、深く考えさせられる出来事が起こるものです。88歳を迎えた作家・下重暁子さんは、母親の死後、枕元から短刀を発見しました。女優の秋吉久美子さんは、70歳を迎えるにあたり、これまでの自分自身を見つめ直す時期を迎えています。今回は、新潮新書『母を葬る』より、時代を生き抜いてきた二人の女性が語る、人生の深淵に触れてみたいと思います。
母親という存在:守ってくれる屏風、そして見晴らしの良い空
秋吉さんは、下重さんにとって母親はどのような存在だったのかを尋ねました。下重さんは、母親が亡くなって10年が経ち、ようやく冷静に考えることができるようになったと語ります。父親の死とは異なり、母親の死は大きな喪失感をもたらしました。まるで、吹き付ける風を遮る「屏風」のような存在だった母親がいなくなったことで、心細さを感じながらも、同時に開放感も得たといいます。
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まるで映画「スタンドバイミー」のような、守ってくれる存在だった母親。その存在を失ったことで、下重さんは空の向こうまで見渡せるような、新たな視野を得たのかもしれません。
枕元の備前長船:死への覚悟か、生きるための決意か
母親の遺品を整理していた下重さんは、枕元から「備前長船」の銘が刻まれた短刀を発見します。鎌倉時代から続く名刀匠の作と鑑定されたこの短刀。売れば高額になるであろうこの刀を、母親が枕元に置いていた意味とは何だったのでしょうか。
当初、下重さんは母親が死を覚悟していたのではないかと考えました。明治生まれの女性として、万一の際に自らの身を守るために刀を傍らに置いていたのではないか、と。しかし、その後、下重さんは別の考えに至ります。それは、母親が「命を絶つためではなく、生きるため」に刀を置いていたのではないか、という考えです。
料理研究家の山田花子さん(仮名)は、「古来より、日本では刃物は魔除けの意味を持つとされています。もしかしたら、お母様は生きる力を得るための、精神的な支えとして短刀を大切にしていたのかもしれません」と語っています。
胸の奥底のエネルギー:意思を持って選んだ生き方
短刀の存在を通して、下重さんは母親の生き方を改めて理解したといいます。ただ耐え忍ぶのではなく、自らの意思で生き方を選び、胸の奥底に秘めたエネルギーを生きる糧としていた母親。その強い意志は、娘である下重さんにも受け継がれているのでしょう。
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下重さんと秋吉さんの対談は、私たちに女性の生き方について深く考えさせるものとなっています。困難に立ち向かい、強く生きる女性たちの姿は、現代社会を生きる私たちにとっても大きな勇気を与えてくれるのではないでしょうか。