特殊清掃の現実:孤独死、そして多死社会の影に迫る

近年、耳にする機会が増えた「特殊清掃」。孤独死や自殺といった現場を特殊な技術で清掃するこの仕事は、多死社会の到来とともに需要が高まり続けています。今回は、特殊清掃のパイオニアであるグッドベア株式会社の宮田昌次社長へのインタビューを通して、その実態に迫ります。孤独死の現状、現場の様子、そして社会的な課題まで、深く掘り下げていきます。

孤独死の現状:増加する若年層の孤独死

日本少額短期保険協会の「孤独死現状レポート」によると、孤独死の発見までの平均日数は18日、平均損害額は100万円を超えるといいます。この金額には、室内の清掃、残置物の処分、原状回復費用などが含まれます。宮田社長は、30年前から特殊清掃に携わってきましたが、近年、需要が急増していることを実感しているといいます。「特殊清掃」という言葉が「事故物件」という言葉とともに広まり、認知され始めたのはここ17年ほどのことだといいます。

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高齢者の孤独死だけでなく、30代後半から50代半ばの比較的若い世代の孤独死も増加傾向にあると宮田社長は指摘します。その多くが引きこもりで、糖尿病や心臓病などの内臓疾患が原因の病死とのこと。部屋にはデジタルツールがあふれ、ネットを通して食事を注文し、運動不足で栄養過多になりがちという現代社会の影を映し出しています。病気になっても病院に行かず、そのまま亡くなってしまうケースが多いそうです。

現場の声:忘れられない子供の孤独死

数多くの現場に立ち会ってきた宮田社長にとって、特に忘れられない現場があるといいます。それは、10代の母親が子どもを放置死させた現場でした。管理会社から「ゴミの臭いがする」と依頼を受け、現場に駆けつけた宮田社長はすぐに異変に気づきました。それはゴミの臭いではなく、遺体の臭いだったのです。部屋の奥には、3、4歳の子どもの遺体がありました。喉が渇いていたのか、プラスチックのコップがそばにあり、母親の服にくるまるような姿で亡くなっていたといいます。近くにはウルトラマンの玩具もあったそうです。この現場の悲惨さは、宮田社長の心に深い傷跡を残しました。

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年間300件もの現場に立ち会う宮田社長。毎回、亡くなった人の思い、そして残された人の苦しみに心を痛めているといいます。自殺の場合は過失が発生するため、原状回復費用が家族や保証人に請求されることもあります。グッドベアの特殊清掃費用は、状況によって異なりますが、最低でも7万円かかるそうです。

腐敗の進行と特殊清掃の必要性

遺体の腐敗は死後30~40時間程度で始まり、死後硬直が解け、細胞が分解され、腐敗ガスが発生し、強い異臭を放ちます。発見が遅れれば遅れるほど、遺体の状態は悪化し、特殊清掃の難易度も上がります。最近では、車内で自殺を試みた後、部屋に戻り亡くなった方の現場もあったそうです。ベッドのマットレスが体液を吸収し、非常に重くなっていたといいます。

孤独死予防への取り組みと今後の展望

宮田社長は10年ほど前から、孤立した人の見守りを目的としたサービスも開始しています。行政の制約などにより強制的な介入は難しいものの、ゴミや排泄物の臭いなどを確認することで、孤立した人の早期発見を目指しています。例えば、独居の高齢者は体力が衰えるとトイレに行けなくなり、ペットボトルなどに排尿することがあります。異臭をきっかけに部屋を訪ねることができれば、孤独死の予防につながる可能性があります。今後は、低所得者や生活困窮者の死後の手続きのサポートも行っていく予定とのことです。

まとめ:多死社会における特殊清掃の役割

特殊清掃は、単なる清掃作業ではなく、故人の尊厳を守り、残された家族の負担を軽減する重要な役割を担っています。多死社会の進行とともに、特殊清掃の需要はますます高まっていくでしょう。孤独死を防ぐためには、社会全体で孤立を防ぎ、見守りの体制を強化していく必要があります。