「クマスプレー」効果に疑問符:政府支援策と市場の課題

近年、日本各地でクマの出没が増加し、人身被害も頻発しています。これに対し、政府は11月14日にクマ撃退用の「クマスプレー」導入支援を盛り込んだ「対策パッケージ」を公表しました。しかし、市場にはいまだ効果が疑問視される製品が多く流通しており、その有効性には大きな課題が残されています。

補助金対象クマスプレーの「目安」設定

こうした状況を受け、岩手県花巻市は11月5日、クマスプレー購入への補助金支給にあたり、対象となる製品の目安を具体的に示しました。これは、クマに対する撃退効果が認められない製品が市場に多く出回っているためです。花巻市が定めた目安は、成分として「カプサイシン(トウガラシエキス)1~2%」、噴射距離「7メートル以上」、噴射時間「6秒以上」です。同市の担当者によると、この目安は「米国EPA(環境保護庁)の認証基準に基づくもの」とされています。米国EPAの認証基準は、北米に生息するホッキョクグマ、グリズリー、クロクマを対象に効果が検証されており、日本のヒグマやツキノワグマに対しても有効性が確認されています。

迫りくるヒグマ。効果が不明な製品も流通迫りくるヒグマ。効果が不明な製品も流通

未だ存在しない日本のガイドライン

米国では、「クマスプレー」として製品を販売するためにはEPAの基準を満たす必要があります。つまり、EPAが認証した製品以外は「クマスプレー」と称して販売することは禁止されています。「COUNTER ASSAULT」「FRONTIERSMAN」などのブランドがEPA認証製品の具体例として挙げられ、国産では「熊一目散」(バイオ科学・徳島県阿南市)がEPAガイドラインに準拠しているとされます。しかし、残念ながら日本ではクマスプレーに関する統一されたガイドラインがいまだ存在しません。このため、現在市場に出回っている「クマスプレー」と称される商品の多くがEPAの基準を満たしていないのが現状です。その中で、花巻市の具体的な動きは、日本のクマ対策を一歩前進させるものとして注目されています。

「催涙スプレー」として問題視される製品

クマ研究者の間では「クマスプレーとしてはいかがなものか」と問題視されている商品の一つに、米国製の催涙スプレー「ポリスマグナム」があります。輸入販売会社ティエムエムトレーディング(北九州市)は、この製品が「複数の県警察本部でクロクマ(ツキノワグマ)用『クマよけスプレー』として正式採用されている」と説明しています。しかし、ポリスマグナムのメーカーウェブサイト(英語表記)では、対人用の「催涙スプレー(pepper spray)」として説明されており、その本来の用途と実態が異なることが指摘されています。

結論と今後の展望

政府のクマ対策パッケージの公表は、増加するクマ被害に対する重要な一歩です。しかし、効果が不確かなクマスプレーが市場に氾濫している現状は、利用者の安全を脅かすだけでなく、対策本来の目的を損なう可能性があります。花巻市が示したような具体的な目安や、米国EPAのような厳格な認証基準が日本においても早急に確立されるべきです。安全で効果的なクマスプレーの普及は、人々の安全を守る上で不可欠であり、包括的なガイドラインの整備が強く求められます。