北朝鮮国境の最前線、恵山市:密輸・脱北取り締まり強化の実態

北朝鮮と中国の国境に位置する恵山市。鴨緑江を挟んで中国と向き合うこの街は、長年にわたり密輸や脱北の拠点として知られてきました。金正恩政権下で国境警備が強化される中、近年、恵山市における取り締まりはさらに厳しさを増しています。今回は、現地からの情報に基づき、その実態に迫ります。

密輸と脱北の「最後の拠点」、恵山市とは

北朝鮮兵士が国境近くの道路を封鎖し通行人を検問している様子。秘密警察が管轄する検問所とみられる。身分証や通行証、携帯電話を主に検査するという。北朝鮮兵士が国境近くの道路を封鎖し通行人を検問している様子。秘密警察が管轄する検問所とみられる。身分証や通行証、携帯電話を主に検査するという。

鴨緑江の川幅が狭く、対岸に朝鮮族が多く居住する中国吉林省長白県と隣接する恵山市。地理的な条件から、40年以上前から密輸や脱北の主要ルートとなってきました。金正恩政権は国境全域に鉄条網を張り巡らせ、住民監視を強化するなど、国境封鎖に躍起になっていますが、恵山市は「最後の拠点」として、その流れを完全に止めることができていませんでした。しかし、2020年のパンデミック以降、恵山市は取り締まりの最重要ターゲットとなり、状況は大きく変化しています。

表彰を受けた保衛局、その「成果」とは

恵山市と長白県を分かつ鴨緑江。川幅はわずか数十メートルと狭い。恵山市と長白県を分かつ鴨緑江。川幅はわずか数十メートルと狭い。

現地からの情報提供によると、恵山市の保衛局(秘密警察)は、密輸や脱北、そして中国製携帯電話の取り締まりで「成果」を上げたとして、昨年末に中央の保衛省から表彰を受け、一部の保衛員には賞金も支給されたといいます。北朝鮮の専門家、金哲氏はこの表彰について、「政権にとって国境の統制は最優先事項。恵山市での取り締まり強化は、国全体への見せしめ的な意味合いも強いでしょう」と分析しています。

中国製携帯電話の取り締まり強化

特に当局が力を入れているのが、中国製携帯電話の取り締まりです。中国の電波が届く国境地帯では、外部情報を得るための貴重な手段となっているだけでなく、密輸や脱北、非合法送金にも利用されているためです。当局は妨害電波の発射や電波探知機による巡回など、様々な手段で取り締まりを強化しています。

住民監視と密告の奨励

さらに、過去に中国製携帯電話を使用していた住民の洗い出しや、収入に見合わない支出をしている世帯の通報を奨励するなど、住民監視の網も厳しくなっています。人民班(末端の行政組織)を通じて、密告への報奨金も支払われているとの情報もあります。この状況について、人権活動家の李明淑氏は「住民同士の不信感を煽り、相互監視を強いることで、社会全体を統制下に置こうとする政権の意図が見て取れます」と警鐘を鳴らしています。

情報統制強化と人権侵害への懸念

恵山市における取り締まり強化は、情報統制を強め、住民の自由をさらに制限するものとなっています。国際社会は、北朝鮮の人権状況の悪化に懸念を深めており、更なる監視が必要とされています。