米国のビール業界が、関税と消費低迷の二重苦に直面し、苦境に立たされています。この記事では、米国の農家、醸造業者、そして消費者への影響について詳しく解説します。
関税政策が米国の農家に打撃
米国とメキシコ、カナダ間の貿易摩擦が激化する中、米国の農家は深刻な影響を受けています。特に、大麦農家は大きな打撃を受けています。
モンタナ州で大麦を栽培するミッチ・コーネン氏は、全米大麦生産者協会のバイスプレジデントも務めていますが、トランプ政権による関税政策によって重要な輸出市場を失い、経営が逼迫していると訴えています。コーネン氏の農場で生産される大麦の約半分はメキシコに輸出され、ビールの原料として使用されています。メキシコは米国産の大麦と麦芽の大口輸入国であるため、もしメキシコが報復関税を課したり、別の国から輸入するようになれば、米国の農家にとって大きな痛手となります。
alt: モンタナ州の広大な大麦畑。黄金色に輝く大麦が収穫を待っている。
カナダもまた、米国産大麦の大口輸入国です。カナダが米国産農産物への関税を発動したことで、米国の農家はカナダへの輸出も縮小するのではないかと懸念しています。ノースダコタ州立大学の農業経済学者フレイン・オルソン氏は、関税の影響で米国の農家は限られた買い手の争奪戦に突入することになると指摘しています。
モンタナ穀物生産者協会のバイスプレジデント、スティーブ・シェッフェルズ氏も、関税の負担は農家が負うことになり、今後の見通しに不安を抱いていると述べています。さらに、関税によってカナダからの肥料の価格も上昇する見込みで、農家の負担はますます増大しています。
ビール消費の低迷が追い打ちをかける
関税問題に加えて、米国のビール消費の低迷も業界の苦境に拍車をかけています。2024年のビール消費量は過去40年で最低を記録しました。醸造業協会のチーフエコノミスト、バート・ワトソン氏によると、消費者はビール以外のアルコール飲料、例えば発泡酒や缶入りカクテルなどを選択するようになっているとのことです。
また、Z世代やミレニアル世代は、以前の世代に比べてアルコール摂取量が少ないという調査結果も出ています。さらに、公衆衛生当局からもアルコール飲料のラベルにがんリスクの表示を求める声があがるなど、ビール業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。
alt: 酒屋の棚にずらりと並ぶ色とりどりのビール。クラフトビールから大手メーカーの定番商品まで、様々な種類が揃っている。
ワトソン氏は、大手ビール会社は市場シェア維持のために価格を据え置く可能性が高いと見ていますが、クラフトビール醸造業者はコスト上昇を吸収できず、値上げせざるを得ない状況に追い込まれる可能性が高いと指摘しています。
ビール価格への影響は必至
ビール缶や樽の製造に必要なアルミニウムや鉄鋼も、主にカナダから輸入されています。これらの材料に関税が適用されると、ビールの製造コストが上昇し、最終的には消費者に転嫁される可能性があります。
特に、メキシコ産のビール「コロナ」や「モデロ」は、米国産モルトを使用しているため、メキシコが米国産モルトに関税を課した場合、米国への輸入時にさらに関税が上乗せされることになります。
ワトソン氏は、醸造業者はコスト上昇分を吸収するか、価格に転嫁するか、難しい選択を迫られることになると述べています。
ビール業界の未来は?
関税問題と消費低迷という二重苦に直面する米国のビール業界。今後の動向が注目されます。消費者は今後、ビールの値上げや種類の減少といった影響を受ける可能性があります。