【ソウル=名村隆寛】韓国の元慰安婦やその遺族らが日本政府に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が13日、ソウル中央地裁で行われた。慰安婦問題をめぐり日本政府が被告となる裁判の審理が、韓国で行われたのは初めて。日本政府は、外国政府が他国の裁判から免除される国際法上の「主権免除の原則」に基づき出廷しなかった。
訴訟は2016年12月、元慰安婦ら20人が「精神的、肉体的苦痛を受けた」などとし、日本政府に約30億ウォン(約3億円)の損害賠償を求めた。
日本政府は訴訟を「主権侵害」として訴状の受け取りを拒否していたが、地裁は今年、裁判所やホームページに訴状の内容を掲示することで被告に訴状が届いたとみなす「公示送達」の手続きを取った。日本政府は5月、韓国政府に対し「却下されねばならない」との見解を伝え、裁判を受けることは認められないとの立場を発表している。
慰安婦問題をめぐっては、朴槿恵(パク・クネ)前政権期の15年12月、日韓両政府が「完全かつ不可逆的に解決」することを確認して合意済みだ。しかし、文在寅(ムン・ジェイン)政権となった韓国は日韓合意に基づき韓国で設立された元慰安婦のための「和解・癒やし財団」を今年、一方的に解散した。
原告側は、日韓合意が日本政府の法的責任や被害者の賠償請求権に触れないまま政治的に妥結されたものだと主張。主権免除についても「慰安婦問題が反人道的な犯罪行為であり、適用すべきでない」と主張している。地裁では主権免除の適用の是非を判断した上で判決を出す見通しだ。
韓国最高裁が昨年、日本企業に賠償を命じたいわゆる徴用工訴訟と同様、日本側が敗訴することになれば、日韓関係の一層の悪化は不可避となる。