アニメと軍事、その虚と実:子供時代の憧憬から専門家への道

日本のアニメや特撮作品、そしてミリタリー。一見異なる世界のように見えて、実は多くの日本人にとって、特に子供時代には、どこか現実離れした憧憬の対象だったのではないでしょうか。本記事では、東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏、防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏、そして朝日新聞記者の太田啓之氏の対談を元に、アニメと軍事、その虚と実について探っていきます。

子供の頃の情熱、そして今の仕事へ

アニメや特撮が好きだった子供時代。その情熱は、今の仕事にどう繋がっているのでしょうか?高橋氏は「全くない」と笑いながらも、もし今の仕事でなかったら「新聞記者」だったかもしれないと語ります。太田氏も同業者として共感を示します。

一方、小泉氏はミリタリーオタクとしての「中二病」が治らず、軍事評論家になったと自己分析。子供時代にはミリタリーとアニメのメカの区別があまりついていなかったと振り返ります。まるで遠い世界のスーパーメカのように感じていた現実の兵器。小学4年生で初めて作った重巡「那智」のプラモデルが、軍事オタクへの道を決定づけた瞬間だったと語ります。

大阪万博で展示された実物大のガンダム大阪万博で展示された実物大のガンダム

戦記ブームとミリタリーへの入り口

太田氏は、自身より少し上の世代が戦艦「大和」や零戦の特集に親しんでいた時代背景に触れます。当時の少年誌で巻き起こった戦記ブーム。その後、松本零士氏の「戦場まんがシリーズ」が流行し、大きな影響を与えたと言います。小泉氏と同様にミリタリーのプラモデルにも影響を受け、アニメだけでなく多様な経路からミリタリーの世界へと足を踏み入れた世代と言えるでしょう。

高橋氏は、小泉氏が初めて作った重巡「那智」について、「条約型重巡」の機能美に惹かれたのだと解説。条約の制限内で性能を極限まで追求した設計が、少年の心を掴んだのです。そして小泉氏は、最終的に「那智」の設計者である平賀譲造船中将が総長を務めた大学の教員になったという、不思議な巡り合わせを明かします。

アニメとミリタリー、その共通点

太田氏は、アニメ好きと軍事オタクには重なる部分があると持論を展開。高橋氏もこれに同意します。現実とは異なる世界観でありながら、緻密な設定やメカニックへのこだわりなど、両者には共通する魅力があると言えるでしょう。 子供の頃の憧れが、専門家としての道へと繋がることもある。アニメと軍事、一見異なる世界が、実は深く結びついているのかもしれません。