6月3日投開票の韓国大統領選は、革新系最大野党「共に民主党」候補の李在明(イジェミョン)前党代表がリードする展開となっている。与党陣営では尹氏による戒厳宣布を擁護するキリスト教右派が存在感を高め、中道層離れが加速している。宗教勢力が伸長し、変質する韓国保守の事情をリポートする。
【写真】韓国政界の「影の支配者」福音派牧師「私の助けなしには大統領になれない」
■集会費用1回1億円
週末のソウル市中心部、光化門広場前。ソウル市内を周遊する韓国版「はとバス」が、無数の太極旗がはためく集会の脇を通り過ぎていく。2階建てバスに乗った外国人観光客にとって、数万人規模の保守系支持者が集う「太極旗集会」は、今やお決まりの撮影スポットとなっている。
北朝鮮への融和政策を進めた文在寅(ムンジェイン)政権下の2019年以降、毎週の太極旗集会を主導してきたのは、プロテスタントの所属教団から除名された異端の牧師、全光焄(チョングァンフン)氏だ。「北朝鮮による連邦制国家の設立、朝鮮半島統一が目前に迫っている」。全氏が北朝鮮の脅威を強調すると、参加者らは両手を挙げて「アーメン」と応じた。
地方住民のバスでの動員、大型ビジョンや簡易トイレの設置…。全氏は産経新聞のインタビューで、集会の費用について「1回につき10億ウォン(約1億円)かかる」と明かした。信者らの献金に加えて、クレジットカード事業による収入なども太極旗集会を下支えする。
抜群の資金力と動員力を誇る全氏を、保守系与党「国民の力」も無視できない。「牧師は右派陣営を天下統一した」。23年春、全氏を称賛する発言が問題となり、党最高幹部職を辞した国会議員は現在、大統領選の党公認候補・金文洙(キムムンス)陣営の秘書室長を務める。金候補も、過去に全氏の集会で演説するなど、強固な関係を誇ってきた。
「尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領とは就任前から毎週通話していた」「私が金文洙を閣僚(雇用労働相)に起用するよう推薦した」。全氏は取材に対し、大統領に直言する「影の支配者」としての影響力をあけすけに語った上で、こううそぶいた。「われわれの勢力は大きい。私の助けなしには、韓国の大統領にはなれないということだ」
■カリスマ塾講師参加の宗教団体も拡大