資産価値の低いマンションに「スラム化」リスク
共用部はゴミが溢れ、エレベーターは止まり、雨漏りや水漏れで、かつての「夢のマイホーム」が住むに堪えない廃墟へと変わる――。
【画像】恐ろしい…屋根も外壁もボロボロに「スラムと化した中古マンション」全貌写真
そんな「マンションのスラム化」が今、日本各地で現実のものとなり始めている。不動産関連の書籍を多数手掛ける住宅ジャーナリストの榊淳司氏が「我々の目につかないところで、すでにスラム化は起こっている。資産価値の低いマンションで確実に進行しています」と警鐘を鳴らす。
そもそもなぜ、今になって「スラム化」が叫ばれるようになったのか。その答えは、スラム化リスクの高いマンションと低いマンションの“違い”を知ることで見えてくる。スラム化はマンションの資産価値と密接に結びついているからだ。
榊氏は「港区のような高級住宅街のマンションは価値が高い。売却すれば5000万円以上で買い手がつくので、管理費や修繕積立金を滞納しても、管理組合が弁護士を入れて競売や話し合いで回収できる。スラム化は起こらない」と言う。
だが、築40年以上で市場価格が1000万円に満たないマンションは別だ。建物の老朽化で修繕費がかさむうえ、1981年の建築基準法改正前の旧耐震基準のマンションは、耐震改修が必要になる場合がある。さらに、築年数が経過したマンションは所有者の高齢化が進んでいる。
国土交通省が発表した『マンション総合調査』最新版である’23年度版によると、世帯主が70歳以上の住戸の割合は築10年以上20年未満のマンションでは15%にとどまっているが、築40年以上では55%にも上る。
年金生活者が増えれば、高額な修繕費の負担は難しく、空き家も増える。「高齢者=経済的弱者。管理費や修繕積立金を払えない住民が増えることを意味する」と榊氏は指摘する。また連絡が取れない所有者の存在も頭の痛い問題だ。
「30戸のマンションで20戸しか住んでおらず、残りの所有者が不明というようなケースは珍しくない。登記を調べても所有者が死亡していて、相続者がわからない。管理組合が弁護士に依頼をして相続者を捜して売却しても、資産価値が1000万円未満のマンションだと、売却額が管理費や修繕積立金の滞納分を下回ることもある」(榊氏、以下「」内の発言はすべて同氏)
もう一つの問題となっているのは、管理組合が機能しないケースだ。資産価値が低く規模が小さいマンションほど、この傾向が強いという。
「資産価値が低いマンションは管理組合が形がい化しているところが多い。滞納者からの回収といった大変な仕事をやりたくないのです。しかし、管理費や修繕積立金の滞納は時効が5年なので、弁護士を入れてでも徴収しようという意欲がないと、滞納金は次々と時効になってしまいます。結果、未回収金が雪だるま式に増える」
管理組合が機能不全に陥ると、修繕はもちろん、エレベーターの点検、共用部の電球交換、清掃、ゴミ出しといった基本的な管理業務も滞る。経済的に余裕のある住民は出て行き、マンションはスラム化の道を突き進むことになるのだ。
◆住民に1000万円以上の解体費が請求された
そこに拍車をかけるのが、ここ数年で急速に進む「人件費、物価の高騰」である。
「修繕工事の費用が高騰しています。たとえば、10年前に1000万円でできた工事が、2000万円かかっても不思議ではありません。職人さんの人件費はそれほど高騰していないのですが、人手不足で必要な人員を確保できず、工事期間が長引いてしまう。請負会社としても工期の見通しが不透明なので、リスクを考えて多めに請求せざるを得ないんです」
’23年度『マンション総合調査』によると、修繕積立金が長期修繕計画に対して不足しているマンションは約37%に上る。すでに資金不足という状況に、工事費の高騰が追い打ちをかける。
「たとえば40年前に分譲されたマンションは、当時の相場で修繕積立金が設定されています。工事代金が高騰した今、想定した額では全然足りなくなっている。管理組合で協議して『1住戸あたり追加で100万円出してください』という議案を出すことになるのですが、年金生活者ばかりのマンションでその議案が通ることはほぼない」
築40年を超えるマンションなら給排水管の更新が必須。費用は1戸あたり100万~300万円となる。トイレや風呂の排水ができなくなったり、配管の破損で部屋のあちこちから水が滴り落ちてくるようになったりすると当然、住めなくなる。
雨漏りは躯体の劣化を加速させるが、’23年度『マンション総合調査』によると、建物の不具合によるトラブルの20%が水漏れで、築40年超のマンションで特に多い。
スラム化の行く末は、滋賀県野洲市に建っていた「美和コーポ」が示している。
このマンションは、外壁や手すりが崩れ、アスベストが露出する「有害・危険マンション」として、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づき、’20年6月に取り壊された。
マンション所有者に代わって野洲市が取り壊しており、全所有者9名のうち行方不明の1名を除く8名に対して費用が請求された。その金額は1人当たり1312万円。しかし、全額を支払ったのはわずか3名。1名は半額程度を支払い、残る4名は未だに支払っていない。
低資産価値のマンションのスラム化は水面下で急速に進んでいる。あなたのマンションは大丈夫か? あなたにも「美和コーポ」の所有者のような日がくるかもしれない。
FRIDAYデジタル