1979年の5月23日、多くの謎を残したまま、未解決に終わった殺人事件が発生した。「長岡京ワラビ採り事件」。京都府長岡京市で、ワラビ採りに山へ入った2人連れの主婦が、白昼、何者かに激しく暴行され、殺害された。
被害女性を仮にA子さん(43)とB子さん(32)とする。2人は市内の同じスーパーに勤務していた同僚だった。遺体の状況を見ると、A子さんは男性に乱暴され、絞殺されていた。暴行はすさまじく、皮下出血が30カ所、肋骨が9本折れ、肝臓が破裂していた。体内に残された体液の血液型はO型だった。一方のB子さんには乱暴の跡はなかったものの、性器に傷がつき、左胸には包丁が突き刺さっていた。全身に50カ所の皮下出血があり、首に片手で絞められた跡もあった。
そしてA子さんのジーパンのポケットには「オワれている たすけて下さい この男の人わるい人」とのメモが残っていた――。
主婦2名を殺め、姿をくらました「この男」とは一体、何者なのか。被害者が残した“ダイイングメッセージ”の指すものとは。
捜査線上には複数の不審者が浮かび、1人は似顔絵まで作られたものの、いずれも逮捕に至らず。1994年に時効を迎えている。「週刊新潮」は当時、現場を取材し、事件の詳細を報じている。以下、当時の記事を再録し、事件の謎に迫ってみよう。【前編】では、犯行の詳細を述べている。【後編】では、A子さんのジーパンに残っていたメモの詳細、そして浮かび上がった“不審人物”について詳述している。
(「週刊新潮」1979年6月14日号記事を一部編集しました。文中の年齢、役職等は当時のものです)
【前後編の後編】
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暴行の激しさ
犯人は1人だったか、複数だったか? 警察はどちらとも断定していない。変質者は一般に1人で行動する。性的な行為そのものは1人に対してしか行われていない(犯人が複数なら2人とも乱暴されたのではないか? )。加えて、A子さんのジーパンのポケットから出て来たメモが、犯人単独説の根拠になっている。
〈オワレているたすけて下さい。この男の人わるい人〉
このメモは5月21日の日付のスーパーのレシートの裏側に、鉛筆で書かれていた。
〈たすけて〉の〈す〉は、初め〈く〉と書かれ、〈す〉と書きなおされ、〈く〉と〈す〉が重なって読みにくいと思ったのか、さらに横に〈す〉が書き加えてある。犯人が複数なら、こんなものを書いている余裕はなかったのではないか? 警察の調べでは、21日から事件当日まで、A子さんがこんなものを書かねばならぬ状況になったことはありえない。筆跡は、まちがいなく彼女のものである。
暴行の激しさについての解釈も、見方が分れる。
いったい1人の人間が、80カ所余も傷を作るほど人を殴るものであろうか?
が、逆に、1人だからこそ、2人の相手に逃げられぬよう暴行を重ねたとも考えられる。