(舛添 要一:国際政治学者)
トランプ政権のリベラル狩りが止まらない。連邦政府がハーバード大学と交わした全契約を打ち切るという。また、アメリカに留学しようとする人への学生ビザについて、審査のための面接を一時停止する。知の低下をもたらすこのような措置をどこまで続けるのか。
■ ハーバード大学に対する締め付け
トランプ政権のリベラル狩りの背景については、4月19日の本コラムで詳しく解説した。
【参考】ハーバードを恫喝するトランプの「リベラル狩り」に大衆はなぜ喝采送るのか…背景に米国の低学歴層が抱く反知性主義
トランプ政権は、この思想弾圧とも言える措置をますます強化している。
ハーバード大学と連邦政府の契約の全面打ち切りによって、大学側は総額約1億ドル(約140億円)の損失を被るという。
さらに、トランプは、ハーバード大学の外国人留学生の比率を、現在の27.2%から15%に制限すべきだと述べている。それは、「アメリカ人がハーバード大学に入りたいのに、外国人留学生のせいで入れない」からだという。
このようなハーバード大学に対する全面攻撃は見せしめであり、プリンストン、イェール、コロンビア、カリフォルニア大学などの名門大学への締め付け強化にも繋がっている。
5月28日、ルビオ国務長官は、X(旧ツイッター)で、一部の中国人留学生のビザ取り消しを開始すると述べた。具体的には、「中国共産党とつながりのある学生や重要分野の研究に従事する学生」という。中国からの留学生は、2024年には27万人に上り、インドからの留学生に次いで2番目に多い。
反ユダヤ主義への攻撃とともに、中国排除も目的になっている。
■ リベラル攻撃
ハーバード大学に対する攻撃の理由は、トランプによれば、「ハーバードが反ユダヤ主義で、反ユダヤ活動を行っているからだ」ということである。
トランプを支持する保守的白人層は、反知性主義、反エリート主義で凝り固まっている。アメリカでは、プロテスタントの信仰、民主・平等という価値が反知性主義を生むことになる。
聖書こそ科学の権威の源泉であり、聖書を科学の上に置く態度からすると、「聖書的世界観」を欠いているマスコミや知識人、つまりリベラル派は批判すべき対象である。まさに、ハーバード、イェール、プリンストンといった大学こそ、左翼リベラルの牙城であり、唾棄すべき知性主義の典型なのである。
2023年秋から始まったイスラエルによるガザへの攻撃に対しては、世界中で抗議の声が上がった。アメリカの大学でも親パレスチナのデモが起こり、またユダヤ人学生が嫌がらせを受けた。トランプ政権は、それを大学当局が取り締まらなかったことを問題にしたのである。しかし、イスラム教徒の学生がひどい扱いを受けたこともまた報告されている。
大学は主義主張、思想信条は自由であるべきであり、キャンパス内で論争が起こるのはむしろ健全である。
そもそも、トランプ政権が問題にする反ユダヤ主義とは何か?