5月30日、秋篠宮ご夫妻の長女である小室眞子さんが米国で第一子を出産されたとの宮内庁発表は、インターネット上などで「男の子なら皇位継承問題に影響するのでは」といった臆測を呼びました。しかし、元皇族である小室眞子さんのお子様は、性別にかかわらず現行の皇室典範においては「女系」にあたり、皇位継承権を持つことはありません。このような憶測が広がる背景には、日本の皇位継承が「男系男子」に限定されていることによる「皇統断絶の危機」が指摘されている現状があります。
現在、皇位継承権を持つのは秋篠宮さま、その長男である悠仁さま、そして89歳になられた上皇さまの弟にあたる常陸宮さまのわずか3方のみです。将来、悠仁さまがご結婚されてお子様をもうけられたとしても、皇位継承資格を持つ方が減り続ける傾向は明らかです。京都大学大学院准教授の川端祐一郎氏が実施した試算では、「男系男子」継承を厳格に維持した場合、2086年には皇統が途絶える可能性が示されています。
このような厳しい現実を前に、「もはや男系男子にこだわり続けることは難しいのではないか」との声が高まりつつあり、女性天皇や女系天皇も皇位継承の選択肢として検討すべきだという意見が増えています。
この動きの中で注目を集めたのが、読売新聞社の提言です。同紙は5月15日付朝刊1面で掲載された「皇統の安定 現実策を 読売新聞社提言」と題する記事において、女性宮家の創設や、結婚相手の皇室入りを認めることなどを提言しました。さらに、「女性天皇に加え、将来的には女系天皇の可能性も排除することなく、現実的な方策を検討すべきではないか」と踏み込んだ見解を示したのです。
[皇位継承に関するデモで意見を表明する女性たち]
「保守」の立場として知られる読売新聞がこのような提言を行ったことに対し、産経新聞や保守系政治団体である日本会議などからは、「読売新聞までか」といった強い反発の声が上がっています。
しかし、読売新聞のこの「心変わり」のように見える提言には、実は伏線がありました。ちょうど1年前、2024年5月19日の社説でも、同紙はこれに類する見解を示しています。「皇室を維持できなくなるような事態に備え、少なくとも皇族女子の子を皇族とすることは選択肢としてあり得よう」と述べています。つまり、今回の提言は読売新聞にとって唐突な方針転換ではなく、昨年から段階的に可能性を示唆するなど、周到な準備のもとで行われた可能性が高いと言えます。
「そんな風に日和見的な態度をとる連中のせいで日本が危機に晒されているのだ」と憤る保守派の方々の心情は理解できます。しかし、一方で読売新聞がこのようなスタンスにならざるを得ない状況も背景にはあるのかもしれません。現在の「男系天皇護持」というロジックは、「天皇」という存在を「日本国民統合の象徴」として捉えている一般国民には、率直に言ってあまり腑に落ちないのが現実です。
女系天皇の検討さえ認められないと主張する人々は、対案として「戦後、皇籍を離脱した旧宮家の男子を、養子という形で皇室にお迎えできるよう法改正すべきだ」という意見を唱えています。これは、「ヒゲの殿下」として国民に親しまれた寛仁親王が生前おっしゃっていたことでもあります。寛仁親王は文藝春秋2006年2月号の記事で、以下のように述べられています。
旧宮家復帰論の歴史的根拠
寛仁親王は、過去の天皇の中にも、現在の皇室からは遠縁にあたる方が皇位を継承した例があることを指摘されています。
「継体天皇、後花園天皇、それから光格天皇のお三方は、それぞれ十親等、八親等、七親等という、もはや親戚とは言えないような遠い傍系から天皇となられています。(中略)宇多天皇という方は一度、臣籍降下なさって、臣下でいらっしゃった間にお子様も儲けられているのに、その後、皇室に適格者がいなくなったのか、皇族に復帰されて、皇太子になられ、天皇に即位されています。お子様も一緒に皇族になられて、その後、醍醐天皇になられています」(文藝春秋 2006年2月号)
このような歴史的なお話を聞くと納得される方もいらっしゃるでしょう。しかし、「血統」というものにさほどこだわりを持たない多くの一般国民は、「そんな親戚とも言えないほど遠いご縁の方よりも、天皇陛下と日々を共にされている愛子さまや、近しい存在だった姪御さんである小室眞子さんのお子さんの方が、感情的につながりを感じやすいのではないか」と考えてしまう傾向があるのです。
まとめ
皇位継承を巡る議論は、男系男子継承の維持が困難となる現実的な危機に直面する中で、多様な選択肢が検討され始めています。読売新聞による女系天皇の可能性を含めた提言は、保守層からの強い反発を招くと同時に、旧宮家からの養子縁組による皇籍復帰案など、様々な意見が改めて浮き彫りになっています。歴史的な先例を根拠とする議論がある一方で、国民感情に根差した感覚との乖離も指摘されており、皇位継承問題の議論は今後も続いていくものと見られます。
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