ドナルド・トランプ前米大統領は、かつて最も頻繁に利用していたソーシャルネットワーキングサービス(SNS)であるX(旧ツイッター)のオーナー、イーロン・マスク氏とのオンライン上の確執において、劣勢に立たされているのかもしれない。
マスク氏は5日、自身のXアカウントを政治的な武器として駆使し、矢継ぎ早にトランプ氏を攻撃した。この手法は、過去にジョー・バイデン現大統領や民主党陣営に対して行った激しい非難と同じものだ。トランプ氏も、規模がはるかに小さい自身のSNSプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」で反撃を試みた。しかし、真夜中を含め1日に100回以上の投稿をすることもある、SNS中毒として知られるトランプ氏をもってしても、マスク氏の圧倒的な発信量とリーチには太刀打ちできなかった。
米大統領として世界のメディアを常に利用できる立場にあるトランプ氏だが、今回のSNS上の口論ではマスク氏の方が有利だった。マスク氏はSNS上でトランプ氏よりもはるかに大きな基盤を持ち、最近では時に荒っぽい手段も積極的に用いている。トランプ氏が「イーロンは『すり減っていた』のでやめさせた」と一般論でマスク氏を揶揄したのに対し、マスク氏は悪意を剥き出しにしながら、圧倒的な量で応戦した。その応酬の中には、性的人身売買の罪で有罪となった故ジェフリー・エプスタイン元被告を引き合いに出す場面さえあった。
SNSの一般ユーザーは、この言い争いを呆然としながら画面をスクロールして見守った。この日のXはここ数年で最も面白かったと冗談交じりにコメントするインフルエンサーもいた。ポッドキャスト司会者のジェイミー・ワインスタイン氏は「正直言ってめちゃくちゃ面白い。これが国家運営だってことを一瞬でも忘れられれば」と皮肉交じりにコメントしている。
SNSが登場するはるか以前、新聞社が大きな影響力を持っていた時代には、「インクをバレル単位で買う男とは争うな」ということわざがあった。この言葉は今、SNSに当てはまる。そしてマスク氏のような億万長者のSNSオーナーは、この新たな時代において圧倒的なパワーを誇示できる。マスク氏はそれを露骨に使い、真偽や稚拙さを気にすることなく次々に投稿を繰り出し、注目と「いいね」、共有で点数を稼ぎ続けた。
2024年5月30日、大統領執務室でのトランプ氏とイーロン・マスク氏の握手
マスク氏の投稿は瞬時に拡散する。トランプ氏のトゥルース・ソーシャルの実質ユーザーが推定630万人とされるのに対し、マスク氏のXは推定6億人のユーザーを抱えているからだ。5日の「けんか」は、別々のSNSを使ってトランプ氏とマスク氏が互いに罵声を浴びせ合う、まるで隣同士が垣根越しに怒鳴り合うような様相を呈した。マスク氏がトランプ氏がトゥルース・ソーシャルに書き込んだ投稿のスクリーンショットを掲載して、間接的に前大統領に反論する場面も見られた。
この確執は数日前から始まっていた。マスク氏(2月の時点で「ストレート男性が別の男性を愛せる限界まで私は@realDonaldTrumpを愛している」とXに投稿していた)は、トランプ氏肝いりの法案を快く思っていなかったものの、それを公にすることはためらっていた。しかし、3日になってそれが一変した。マスク氏はXへの歯に衣着せぬ投稿で、その法案を「胸くそ悪い醜態」とこきおろし、ネット上での圧倒的な影響力を見せつけた。4日には、これに賛同したファンへの返信で、映画「キル・ビル」のユマ・サーマンの画像など、法案反対の風刺画像を共有した。
ワシントン・ポスト紙が数日前に報じた通り、トランプ氏はトゥルース・ソーシャルへの投稿頻度が増えていたにもかかわらず、世間の注目度は低調が続いていた。同紙によれば、トランプ氏が今年1月に大統領に返り咲いてから132日の間にトゥルース・ソーシャルに投稿した回数は2262回。これは、1期目の同じ期間にツイッター(現在のX)に投稿した回数の3倍以上に相当する。しかし、トゥルース・ソーシャルの規模ははるかに小さく、トランプ氏の発言は、風刺画像を多用するマスク氏の挑発的な発言ほどは注目されなかった。
5日にトランプ氏がホワイトハウスの大統領執務室でマスク氏に言及し、マスク氏に反撃される前に、マスク氏はトランプ氏の過去のツイートを掘り起こしていた。例えば、債務上限を引き上げる共和党の計画に反対したトランプ氏の過去の投稿を紹介し、「賢明な言葉だ」と皮肉を込めてコメントすることで、トランプ氏の矛盾を突いた。
対立が深まるにつれ、5日午後の取引ではマスク氏が率いるテスラ株が下落した。しかし、下落はトゥルース・ソーシャルを運営するトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)株も同じだった。
「イーロンが自分に歯向かうのは構わない。だが何カ月も前にそうすべきだった」とトランプ氏は自身のサイトに書き込み、自らが「大きな美しい法案」と呼ぶ法案への注目を取り戻そうとした。法案の論点についていくつか投稿した後、トランプ氏は観客に再び振り向いてもらおうとする歌手のように、あのヒット曲を繰り出した。「米国を再び偉大に!(Make America Great Again!)」
今回のSNS上での衝突は、プラットフォームの規模とオーナーの発信力が、現代政治におけるメッセージの伝播にどれほど大きな影響を与えるかを改めて示すものとなった。圧倒的なリーチを持つマスク氏のプラットフォームXは、トランプ氏にとってかつての強力な拡声器であったと同時に、今や彼を打ち負かす可能性を秘めた戦場と化している。
出典:CNN (ブライアン・ステルター記者、アンドリュー・キレル記者による分析記事) Source link