6月5日夜、戦後80年の節目を迎えるにあたり、戦没者を慰霊するため沖縄県を訪れていた天皇、皇后両陛下と長女の愛子さまは、2日間の日程を終え、羽田空港に帰京された。愛子さまにとっては初めての沖縄訪問であり、無事日程を終えられた。その一連の訪問における愛子さまの気持ちのこもった立ち振る舞いは、マナーの専門家から称賛を受けている。
沖縄初訪問:濃密な2日間
天皇ご一家にとって、愛子さまの初めての沖縄訪問となった2日間は、内容の濃いものだった。
1日目の活動
訪問初日の4日、ご一家は沖縄に到着後、糸満市にある「国立沖縄戦没者墓苑」を訪れ、18万人以上の遺骨が納められた納骨堂で供花された。その後、沖縄戦などの犠牲者24万人を超える方々の名が刻まれた「平和の礎」を訪問された。続いて「平和記念資料館」に移動し、展示を鑑賞後、戦争体験者や遺族のほか、戦争の記憶を次世代に語り継ぐ若い世代の語り部とも懇談の時間を設けられた。
2日目の活動
5日午前中は、太平洋戦争中にアメリカ軍の魚雷攻撃で沈没し、多くの子どもの命が失われた学童疎開船「対馬丸」の犠牲者慰霊碑である「小桜の塔」に花を供えられた。その後、「対馬丸記念館」では、犠牲者の遺影や遺品を目にされた後、生存者や遺族、語り部らと熱心に懇談された。
沖縄訪問中、対馬丸記念館にて生存者・高良政勝さんと懇談される天皇、皇后両陛下と愛子さまの様子
ご一家は沖縄の伝統的な衣装である「かりゆしウェア」をお召しになり、首里城公園を訪問された。「沖縄国際海洋博覧会50周年企画展」をご覧になった後、2019年10月に火災で焼失した首里城正殿の再建工事の様子を視察された。
愛子さまにとって初めての沖縄訪問は、今後の次世代への平和の架け橋の担い手として、大いに注目を集める機会となった。実際、天皇、皇后両陛下、そして愛子さまがお乗りになった車が通る沿道には、多くの人々が集まり、温かく出迎えられた。
マナー専門家が称賛する愛子さまのお振る舞い
愛子さまの沖縄での立ち振る舞いは、どの場面においても「お気持ちがこもっていた」と、大手企業のマナーコンサルティングやNHK大河ドラマなどのマナー指導を務めるマナーアナリストの西出ひろ子さんは高く評価する。特に西出さんが感銘を受けたのは、愛子さまが車を降りた後の様子だという。
両陛下への敬意
天皇ご一家は、普段のご静養や美術展、コンサートなどへ移動される際は1台の車に3人揃って乗車されることが多い。しかし、今回の沖縄訪問は慰霊という重要なご公務の場であったため、天皇、皇后両陛下は天皇旗をつけた御料車に、愛子さまはその後ろのお召車に、それぞれ分かれて移動された。
「先に愛子さまが車を降りられ、天皇、皇后両陛下が車を降りられるのを待って、お二人にきちんとお辞儀をなさるのです。訪問の先々でそういったお姿が見られましたが、天皇、皇后両陛下を敬う気持ちが、愛子さまのお辞儀にはっきりと表れていらっしゃいました。今回は慰霊の訪問という公務ですから、親子であるか否かは関係ありません。成年皇族としての強い意識と、それに基づいた立ち居振る舞いが大変自然で、心からそれを行なっていらっしゃるのが伝わってまいりました」と西出さんは語る。
雅子さまへ向けられた一瞬の視線
今回の沖縄訪問で最初の訪問先である「国立沖縄戦没者墓苑」での一幕も、西出さんの印象に残ったという。愛子さまが一瞬、雅子さまに視線を向けられる場面があったのだ。ほんの一瞬の眼差しだったが、西出さんはそれを見逃さず、そこに「雅子さまへの敬意があふれていた」と話す。
「車から降りて、出迎えの現地の方々にご挨拶なさるときに、愛子さまはわずかに雅子さまをご覧になったのです。そのお姿に、皇后陛下のおあとについて、しっかりと振る舞わなければならないという愛子さまの自覚のようなものを感じました。“目上の方”である雅子さまのお姿に従おうとする謙虚さや素直さが、雅子さまをちらりとご覧になった愛子さまの視線に宿っていたのです」と西出さんは指摘する。
息の合ったご一家の姿
愛子さまの立ち振る舞いから「心」を感じ取るとともに、ご一家の息の合った姿にも西出さんは驚きを隠せない様子だった。
「当日、車で現地に入り、その場で慰霊の供花などを行われるため、現地での事前のリハーサルはできないと想像されます。それにもかかわらず、どうして天皇、皇后両陛下と愛子さまは、このように完璧に揃ってお辞儀ができるのだろうかと感心していました。国立沖縄戦没者墓苑で供花に進まれる際のお三方の歩みは、右、左、右、左と、ほんの一瞬たりとも乱れることなく、まさに息がピッタリと合った美しいものでした」と西出さんは感嘆した。
今回の沖縄訪問は、戦没者への深い慰霊の意を示すとともに、愛子さまが成年皇族として平和学習と次世代への継承に真摯に向き合われる姿が印象付けられる機会となった。