令和の小泉劇場:米価格引き下げと政局の行方

「コメ価格を引き下げた救世主」としてにわかに注目を集めている小泉進次郎農相の動向が、低迷する石破内閣や自民党執行部、さらには財務省までをも巻き込み、政局の景色を変えつつある。かつて与党の苦戦が予想されていた夏の参院選に向けて、「令和の小泉劇場」とも呼べる状況が幕を開けたことで、その影響が注目されている。

米価引き下げ策の反響と「救世主」の誕生

進次郎農相が主導した政府備蓄米の販売が、「5キロ約2000円」という公約通りの価格で店頭に並ぶやいなや、瞬く間に売り切れが続出した。この動きはワイドショーでも連日取り上げられ、進次郎氏のスーパー視察の様子などが大きく報じられるなど、米価格に関する報道が活況を呈している。この成功により、小泉農相は消費者から「救世主」として称賛される存在となった。

この人気ぶりを際立たせるかのように、「憎まれ役」となるような存在も現れた。自民党の農水族に属する野村哲郎元農相は、小泉氏の手法を「ルール無視」と厳しく批判したが、小泉農相は「大臣が決めるのがルールだ」と即座に反論し、批判を一蹴した。国会での質疑応答においても、進次郎氏は野党党首からの追及を巧みにかわしている。例えば、国民民主党の玉木雄一郎代表は、備蓄米放出を批判する意図で「動物の餌」と発言したが、これが逆に反発を招き、最終的に謝罪に追い込まれるという事態になった。

令和の小泉劇場:米価格引き下げと政局の行方

異例ずくめの手法と法的な懸念

進次郎農相のやり方は、敵なしに見える一方で、異例な点が多い。政府備蓄米の売り渡し価格を、競争入札ではなく随意契約で、従来の60キロ2万円台から約1万円へと半額に引き下げただけでなく、「買い戻し条件」を撤廃し、さらにコメの輸送費まで政府が負担するという内容は、会計法に詳しい弁護士からは「法令を無視した超法規的措置」と指摘されている。この政策は、高値で在庫を抱える卸業者や、競争入札で政府米を高く購入したJAなどが損失を被る可能性を顧みず、ひたすら米価格を大幅に引き下げて消費者の不安を解消することに焦点を当てた、破天荒なものと言える。

「父譲り」の手法が政局に与える影響

政治評論家の木下厚氏は、進次郎氏の一連のやり方が、父である小泉純一郎元首相を彷彿させると指摘する。木下氏は、小泉純一郎内閣が進めた郵政民営化の際、野党議員として国民の熱狂を目の当たりにした経験を持つ。「郵政民営化の時、小泉首相は国民を味方につけ、自民党内の反対派と派手にぶつかり、野党は蚊帳の外に置かれた。進次郎氏も、自民党の農水族や農協という抵抗勢力と対決する姿勢を見せながら備蓄米の値下げ販売を断行し、国民に強くアピールしている。この動きによって、いつの間にか石破内閣の米無策を批判していた野党から、政局の主役の座を奪ってしまった」と木下氏は分析する。

かつて郵政民営化に反対し、法案採決で棄権した経緯を持つ野村元農相は、それだけに、進次郎氏が「父譲りの手法」で農協の既得権益を破壊することを警戒しているとみられる。野村氏は、「小泉農相はお父さんに似て、あまり相談せず、自分で判断したことをどんどんマスコミに発表する。森山(裕・幹事長)先生から注意してもらわないと、今後が心配だ」と発言しており、党内からの懸念も示されている。

結論

小泉進次郎農相による異例の米価格引き下げ策は、国民からの熱狂的な支持を集め、「令和の小泉劇場」とも称される政治現象を生み出している。この手法は、かつての小泉純一郎元首相を彷彿とさせ、党内外の反対勢力や野党を退けつつ、政局の主導権を握る可能性を秘めている。その異例性ゆえに法的な懸念や関係業界への影響も指摘されるが、夏の参院選を控える中、この動きが今後の政局にどのような変化をもたらすか、引き続き注視が必要である。