米国が留学生ビザ面接停止とSNS審査強化へ:ハーバードと大学は対抗できるか?

かつて世界中の学生にとって第一の留学先だったアメリカが、今、大きな転換期を迎えています。特に、米国政府による留学生向けビザの発給プロセスにおける変更は、多くの海外からの学生に影響を与え始めています。ハーバード大学での出来事が象徴するように、大学側と政府の間の緊張が高まっており、今後の「アメリカ 留学生 ビザ」の行方が注目されています。

ハーバードとトランプ政権の対立

私はハーバード大学のOBとして長年卒業式を見守ってきましたが、今年の5月29日ほど強い団結とエネルギーを感じたことはありませんでした。通常、大学学長が公の場で批判されることも多い時代ですが、ハーバードの現学長は壇上に登っただけでスタンディングオベーションを受けました。この光景は、ハーバードのみならず、アメリカ全体で学ぶ留学生の権利を巡る広範な戦いを象徴しています。トランプ政権はコロンビア大学に圧力をかけましたが、ハーバードは要求に対して断固として抵抗する姿勢を見せました。トランプ政権は、反ユダヤ主義の助長や中国共産党との共謀、「安全でないキャンパス環境」を維持しているとして、ハーバード大学から留学生の受け入れ資格を剥奪しようとしました。もし裁判所による差し止め命令が出なければ、ハーバードの学生数のおよそ27%にあたる約7000人近い留学生が、他の大学への移籍を余儀なくされる事態になっていたでしょう。

ハーバード大学の卒業式で「留学生を守れ」と書かれたプラカードを持つ学生たち(2025年5月29日)ハーバード大学の卒業式で「留学生を守れ」と書かれたプラカードを持つ学生たち(2025年5月29日)

学生ビザの停止とSNS審査強化

最終的に、アリソン・バローズ判事は政府に対する差し止め命令を延長しました。これはハーバード大学が裁判で有利な立場にあることを示唆しています。しかし、これを受けてか、米国務省は世界中の大使館や領事館に対し、学生ビザ(F、M)および交流訪問者ビザ(J)の「追加申請枠」の提供を一時停止するよう指示しました。さらに、国務省は「こうした申請者全員を対象に、SNSの審査を拡大する」と宣言しました。これは、全ての申請者のSNSへの投稿、「いいね!」、シェア、コメントなどを徹底的に調査し、アメリカの国家安全保障を脅かす可能性のあるコンテンツがないかを確認することを求めるものです。

留学生の「冷え込み」とアメリカの魅力低下

大学側が法廷でトランプ政権に勝ち続けたとしても、既に海外の留学希望者の間ではアメリカへの留学に対する大きな「冷え込み」が発生しています。アメリカは長年、最高の留学先としての地位を保ってきましたが、デジタル化とグローバル化が進む中で他国も知識移転の恩恵を受けており、その優位性は徐々に失われつつあります。加えて、教育費用の高騰がアメリカの地位を脅かしていましたが、今回の政策変更はさらに状況を悪化させています。トランプ氏がエリート大学との対立姿勢を明確にして以来、外国人学生によるアメリカの大学の夏期コースに関するGoogle検索件数は、ビザ発給停止の決定以前から大幅に減少していました。

大学側の反撃と今後の見通し

大学にとって、留学生は収入面だけでなく、グローバル社会に最高の教育を提供するという使命の面でも非常に重要な存在です。ハーバード卒業式での力強い団結の光景は、全米の大学が学生ビザの停止という動きに全力で対抗するであろうことを示唆しています。具体的には、世界中の優秀な頭脳に依存するGoogle、Microsoft、Appleといったトップ企業との連携強化、オンライン教育プログラムの拡充、議会への強力なロビー活動などが展開されると予想されます。また、抑圧的な政権下にある他国の教育機関の戦略を参考に、海外のサテライトキャンパス(例えば、ジョージタウン大学はカタール、イタリア、インドネシアにキャンパスがあります)の設置や、海外の名門大学との複数学位取得協定を増やすなど、国境を越えた連携を強化する可能性も高いです。

全てのビザ発給を一時停止するというトランプ政権の決定は、ハーバードとの法廷闘争で後退を強いられた後、政府の権力を誇示し威嚇するための「はったり」である可能性が高いと見られます。米国際教育連盟は、留学生がいなくなれば「彼らが米経済にもたらす438億ドルと年間40万人近いアメリカ人の雇用を失うことになる」と指摘しており、経済的な損失は甚大です。トランプ政権は留学制度を混乱させる巨大な権力を持っていますが、ハーバード卒業式のエネルギーと、国際交流の重要性を示すデータから判断するに、この戦いは大学側が勝つ公算が大きいでしょう。しかし、留学希望者が以前と同様にアメリカに魅力を感じ続けるかどうかは、また別の問題として残されています。

サム・ポトリッキオ(米ジョージタウン大学教授)