努力しても報われないのはなぜ?武蔵野大学教授が指摘する「努力神話」の落とし穴

結果を出せる人と出せない人の違いは何でしょうか。多くの人が「努力が足りないからだ」と考えがちですが、武蔵野大学教授の荒木博行氏は、努力と報酬が単純な比例関係にあるという考えは「神話」にすぎないと指摘します。この「努力神話」が、私たちの成果に対する認識にどのような影響を与えているのかを探ります。

幼い頃から、「努力すれば必ず報われる」「努力は決して裏切らない」といった言葉を耳にしてきました。これは、まるで自動販売機のように、努力という「硬貨」を投入すれば、報酬という望んだ「商品」が必ず出てくる、という考え方です。荒木氏はこれを「自動販売機型神話」と呼びます。この神話は、確かに健全な努力を促す効果があります。頑張れば報われると信じるからこそ、人は目標に向かって邁進できるのです。また、もし望む結果が得られなかった場合、それは自分の努力が不足していたからだと反省し、さらなる高みを目指す謙虚な姿勢へと繋がります。教育の場でも、この考え方がしばしば強調されるのはそのためです。

結果を出すために努力する姿をイメージした写真結果を出すために努力する姿をイメージした写真

しかし、この「努力神話」は、物語や創作物の中でも強調されることで、より深く私たちの意識に刷り込まれています。例えば、人気漫画『スラムダンク』には、努力の重要性を描く象徴的なシーンがあります。主人公の桜木花道がインターハイ直前、チームを離れて1週間で2万本のシュート練習に没頭する場面です。彼は地道なゴール下シュートを繰り返し練習し、その成果が物語のクライマックスである山王戦の最終盤で決定的な一打として結実します。読者は、この血の滲むような努力の過程を知っているからこそ、最後のシーンに強い感動を覚えるのです。1週間で2万本という練習量は、単純計算で1日約3000本、1分間に5本打ち続けてようやく達成できるという、想像を絶するものです。物語は、「これほどのとてつもない努力をしたからこそ、大一番で力を発揮できた」というメッセージを私たちに強く印象づけます。

このように、「自動販売機型神話」としての努力は、人を励まし、反省を促す教育的な側面を持つ一方で、物語の中で劇的に描かれることで、努力と結果が常に直線的に結びつくかのような誤解を生む可能性も秘めています。荒木氏は、この単純な神話だけでは説明できない、努力と結果の関係性の複雑さを指摘し、より現実的な理解の必要性を示唆しています。

【参考文献】
荒木博行『努力の地図』クロスメディア・パブリッシング

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