北朝鮮当局は、首都・平壌(ピョンヤン)の目覚ましい発展をたたえる歌を住民に広め、思想注入を図っている。しかしその一方で、昨年の深刻な水害で甚大な被害を受けた地域の復旧作業はほとんど進んでいないことが明らかになった。これは、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を国民を深く愛する指導者(愛民指導者)として描出しようとする意図とは裏腹に、実態としては北朝鮮が誇示的な建設事業に注力していることの表れと分析できる。
華麗な平壌賛歌とその意図
北朝鮮の国営メディアである労働新聞は、6月8日付の紙面で「新時代のわが首都賛歌」と題した解説記事を掲載し、4月15日に発表された新曲「親しみある私の首都平壌」を大々的に紹介した。同紙は、「世の中には名だたる都市は多いが、平壌と比べることはできない」「栄光の都市平壌は母の懐」といった歌詞を引用し、この曲が「新しい道が次々と開かれ、超高層、高層住宅がそびえ立つ我々の首都の全景」を反映していると強調した。
さらに、この新曲は「華麗な建築物が立ち並ぶわが平壌」「偉大な新時代の平壌の姿」を映し出すものであり、「偉大な金正恩時代に生きる我々人民の高揚した思想感情」を伝えると力説した。「このような地上の楽園で平凡な労働者である私が暮らすことになったという事実が信じられない」という北朝鮮住民の声も紹介され、体制宣伝に利用されている様子がうかがえる。
新曲の発表は、制裁と経済難が続く状況下で実現した平壌の発展を金正恩委員長の業績として強調し、先代指導者との差別化を図る目的があると考えられる。平壌を「母の懐」に例える表現は、金正恩委員長が娘のジュエ氏を前面に出し、親近感のある父親像をアピールする動きとも関連があるという解釈も可能だ。この歌が金日成(キム・イルソン)主席の誕生日(太陽節)に合わせて公開されながらも、太陽節の行事ではなく、金正恩委員長が主宰した平壌の和盛(ファソン)地区第3段階1万世帯住宅竣工式で流された点も、こうした分析を裏付けている。
慶南大学のイム・ウルチュル北朝鮮学科教授は、「北朝鮮において、歌は住民向けの政治的宣伝扇動における核心的な戦略的手段であり、金正恩の哲学と思想、党政策の集約体だ」と説明する。北朝鮮が対韓国断絶措置に着手した昨年以降、「パンガプスムニダ」のような民族和解関連の歌を禁止したのも、同様の文脈で理解できると指摘されている。
北朝鮮 平壌 未来科学者通りに建つ近代的な高層アパート群
新義州水害地域の放置された実情
しかし、実情に目を向けると、金正恩委員長が進める平壌の現代化や「地方発展10×20政策」といった都市再建事業は、経済的成果を住民に誇示するための政策に過ぎないという指摘がある。その代表的な例が、昨年7月に深刻な洪水被害が発生した平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シンウィジュ)一帯で復旧事業がほとんど進んでいないことだ。
韓国の衛星写真分析会社エスアイエイ(SIA)が取得した衛星写真によると、昨年12月と今年5月に撮影された新義州一帯の様子は、ほとんど変化が見られない。一部の臨時建築物を除いて、昨年7月の水害で被害を受けた住宅街は撤去されたままで、事実上放置されている状況だ。昨年7月から8月にかけての豪雨により、平安北道新義州や慈江道(ジャガンド)、両江道(ヤンガンド)地域では甚大な人命・財産被害が発生し、金正恩委員長は3回も現地指導を行い、迅速な収拾を指示した。
北朝鮮 新義州 水害被害後、復旧が進んでいない住宅街の衛星写真
金正恩委員長は現地指導で、新義州をはじめとする水害地域に住宅や学校、病院などを新たに建設するよう強調したが、これは民心離反を懸念したものだという解釈があった。水害地域の子どもたちを「保護」名目で平壌に連れてきてケアする様子も公開され、被災者への配慮をアピールした。
誇示的建設と民生復旧の歪み
しかし、新義州地域では、中国国境に接する威化島(ウィファド)の一部を除き、住民生活に直結する住宅街の建物は1年近くも整備されないままとなっている。これは、金正恩委員長が強力に推し進める地方発展10×20政策事業などに資材や人員が集中投入されており、平安北道地域では相対的に人員や資源が不足しているためでもある。国際社会による全面的な制裁と慢性的な経済難に加え、地方建設やロシア支援向けの軍需生産強行のために、原材料や資金が不足し、国民生活に直結する水害の復旧さえもままならないというのが実態と言える。
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