エヌビディアCEOが量子計算の「変曲点」に言及、欧州AIインフラ投資を加速へ

米国の先端AI半導体企業エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は6月11日、フランスのパリで開催された欧州最大のスタートアップ見本市「ビバテクノロジー(VivaTechnology)」とGTC開発者カンファレンスでの基調演説において、「量子コンピューティングが変曲点に達している」との見解を示しました。

フアンCEOは、量子コンピュータが「これから数年以内に興味深い問題を解決できる領域で、実際に適用できる時期に近づいている」と述べ、実用化への期待感を表明しました。また、エヌビディアが開発を進めるハイブリッド量子・古典コンピューティングソリューションである「CudaQ」に言及し、「いまは本当に興味深い時期」だと強調しました。CudaQは、量子コンピュータの限界をエヌビディアの高性能グラフィック処理装置(GPU)に基づいた古典コンピューティングが補完する方式で、量子コンピュータと既存のコンピュータを連携させるオープンソースプラットフォームです。

この日のフアンCEOの発言は、彼が1月に量子コンピュータの商用化見通しについて示した否定的な見解とは大きく異なります。当時彼は、「実用的な量子コンピュータが登場するのに20年はかかるだろう」と予想しており、この発言を受けて量子コンピュータ関連株価は約40%急落しました。今回の発言を受けて、ニューヨーク証券市場では量子コンピュータ関連銘柄が乱調となり、イオンキュー(IonQ)の株価は約2%上昇、リゲッティ(Rigetti)は12%上昇しましたが、ディーウェイブ(D-Wave)は1%下落しました。

エヌビディアCEO ジェンスン・フアン氏の講演風景(量子計算・欧州AI投資関連)
エヌビディアCEO ジェンスン・フアン氏の講演風景(量子計算・欧州AI投資関連)エヌビディアCEO ジェンスン・フアン氏の講演風景(量子計算・欧州AI投資関連)

フアンCEOはまた、欧州の量子コンピューティングスタートアップエコシステムについても触れ、「大きなコミュニティに深い感銘を受けた」と高く評価しました。前日の夜には、フランスの量子技術企業パスカル(Pasqal)の関係者らと会談したことも明かしました。

さらに、欧州における人工知能(AI)インフラ拡大計画も公開し、「欧州に世界初の産業用AIクラウドを構築する」と発表しました。このクラウドは、自動車の仮想風洞設計とシミュレーションに使われる見通しです。仮想風洞を用いることで、車の空気抵抗などの挙動を観察し、リアルタイムでデザインを修正することが可能になります。ロイター通信によると、エヌビディアはこの産業用AIクラウドプラットフォームをドイツに最初に構築し、BMWやメルセデスベンツといった欧州の主要自動車メーカーに対し、製品設計シミュレーションから物流管理に至るまで、様々な工程でAIとロボット技術を組み合わせた支援を提供する予定です。

フアンCEOは「欧州はAIファクトリー、AIインフラの重要性を既に理解している。ここで多くの活動が進んでいるのを見られて非常に嬉しい」と語り、今後欧州にAIファクトリーを20ヶ所追加し、2年以内にAIコンピューティング容量を10倍に拡大するという野心的な計画も提示しました。また、各国のパートナーシップ事例として、フランスのAIスタートアップであるミストラルAI(Mistral AI)と協力し、最新のAIチップ「ブラックウェル(Blackwell)」1万8000個を使用するクラウドプラットフォームを構築する予定であることも明らかにしました。

ビバテクノロジーは、スタートアップと欧州の投資家が集まる大規模なイベントで、フランスの広告大手ピュブリシス(Publicis)やLVMHグループ傘下のメディアであるル・パリジャン(Le Parisien)、レゼコー(Les Echos)などが共催して2016年に始まりました。

結論として、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、量子コンピューティングが実用化の段階に近づいているという従来の悲観的な見方から転換した姿勢を示しつつ、欧州におけるAIインフラへの大規模な投資と拡張計画を詳細に発表しました。特に産業界向けのAIクラウド構築や自動車分野での応用、そして欧州スタートアップとの連携は、AIおよび量子技術の今後の展開において重要な動きと言えます。

Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/51366741ba213a1ba856941bc3881b09b056f844