今夏に控える参院選を巡り、国民民主党の玉木雄一郎代表(56)が苦渋の決断を下し、波紋を呼んでいる。問題となっているのは、元衆院議員の山尾志桜里氏(50)の比例代表での公認を取り消したことだ。玉木氏は6月12日夕方、自身のX(旧Twitter)に「擁立前の準備段階から決定、発表、その後のフォロー、公認見送りの判断に至るまで、それぞれの段階でもっと良い形で行動できなかったか、今も自問自答しています」「ご支持、ご期待いただいている皆さんに対してだけでなく、山尾さんに対して大変申し訳なく思っております」と反省の弁を綴り、本人にも謝罪したことを明かした。
国民民主党が山尾氏を参院選比例代表候補として擁立することを発表したのは5月14日だった。しかし、山尾氏には過去に複数の「いわくつき」とされる問題が報じられてきた。’17年には弁護士の倉持麟太郎氏との不倫疑惑、’21年には議員パスの不正利用問題などが挙げられる。これらの過去報道もあり、山尾氏の擁立は発表直後から大きな波紋を呼び、党に逆風が吹く事態となった。昨年の衆院選で議席を大幅に増やし、支持を拡大していた国民民主党にとって、これは予期せぬ展開だったと言えるだろう。
ネット上では、山尾氏の擁立撤回を求める声が相次いだが、党は当初、判断を覆さなかった。そして6月10日には山尾氏本人が立候補表明の記者会見を開いた。会見で山尾氏は、不倫疑惑については「男女の関係はなかった」と改めて否定し、詳細については「お話させていただくのは、控えさせてください」と、これ以上の言及を避けた。一方で、議員パスの不正利用や、’16年に報じられたガソリン代の不正計上については事実を認めた上で陳謝した。会見は約2時間半に及び、山尾氏としては過去の問題に対する「説明責任」を果たそうとした姿勢を示した。しかし、その説明が有権者の納得を得られるものだったかは疑問視された。
会見の翌日、6月11日の夕方、国民民主党は両院議員総会で山尾氏の公認取り消しを正式に決定した。この決定について、玉木代表はその日のうちに「正直、有権者や全国の仲間、支援者から十分な理解と信頼が得られないと判断しました」と理由を説明。榛葉賀津也幹事長も、多くの人々から「昨日の記者会見で山尾氏は疑問を払拭できなかった」といった指摘があったこと、そして「すべての都道府県から公認を見送ってほしい」という要請があったことを明らかにした。党の運営において、支援者からの理解と信頼が不可欠であるという判断が下された形だ。
しかし、今回の公認取り消しに至る一連の混乱は、国民民主党が「自ら招いたもの」だと指摘する声も上がっている。ある全国紙の政治部記者は、今回の状況について厳しく批判する。「そもそも山尾さんに国政復帰するよう要請したのは、他ならぬ玉木代表自身です」と記者は語る。山尾氏も、公認取り消しを受けて6月12日に発表した自身のコメントの中で、玉木代表と榛葉幹事長から「三顧の礼」をもって要請を受け、熟慮の末に立候補を決断した経緯を明かしている。党側が公認取り消しの理由の一つとして、山尾氏の10日の会見での説明が不十分だったことを挙げているが、政治部記者は「いずれも過去の話で、そのことがネックになるなら擁立しなければよかっただけのこと」と指摘する。さらに山尾氏は12日のコメントで、自身の疑惑が党に懸念を抱かせないよう、公認前に自ら党の選対(選挙対策委員会)に面談を申し出たものの、「不要」と判断されたことも暴露している。このことから、事前の準備や確認が「ずさんだったと言わざるを得ません」と記者は批判した。
国民民主党の対応に対する不信感は、山尾氏への「掌返し」とも取れる対応にも向けられている。山尾氏は10日の会見に玉木代表と榛葉幹事長の同席を求めたが、「辞退会見であれば同席する」と返答されたことも山尾氏側のコメントで明らかになっている。自ら国政復帰を強く呼びかけ、一度は公認候補として擁立しておきながら、記者会見の翌日に態度を急変させ、冷徹な形で公認を取り消した玉木氏の姿勢に疑問の声が上がっている。
国民民主党の玉木雄一郎代表と、参院選公認が取り消された山尾志桜里氏のツーショット
さらに、山尾氏が「疑惑を払拭できなかった」として公認を取り消された一方で、玉木代表自身も同様に「脛に傷」を持っていることが、ネット上での批判を強める一因となっている。国民民主党が大躍進した昨年の衆院選直後、’23年11月には「FLASH」が玉木氏と元グラビアアイドルで高松市観光大使を務める女性との不倫疑惑を報じた。これを受け、玉木氏はすぐさま記者会見を開き、「報道された内容はおおむね事実」と認め、謝罪した。その後、同年12月には党から3カ月間の役職停止処分を受け、今年3月に代表職に復帰していた。
この経緯を知る人々からは、X上で山尾氏と玉木氏に対する党の「差」に違和感を唱える声が相次いでいる。《玉木雄一郎氏、自分の不倫は棚に上げて何言ってんだ!? 役職停止3ヶ月の軽い処分では到底納得出来ない。潔く退いていただきたい》《なあ、国民民主党、山尾しおりがNGで、玉木雄一郎はOKなのはなぜなんだ? 許される不倫と、許されない不倫があるというのか? わかるように、論理的に、明解に説明してくれよ》《自身の不倫は『たった3か月表に出ないだけ』の甘々処分なのに、不倫していた事がわかっていたにも関わらず公認決定して、世間から批判受けるとサッサと取り消し、知らん顔の玉木雄一郎氏… ホント勝手な男と思います》《山尾志桜里はダメで、玉木雄一郎はいいのか。不公平ですよね》といった批判的な投稿が多く見られた。
前出の政治部記者は、この「差」について解説する。「玉木さんは不倫を認めており、山尾さんは認めていないという点や、現職の党代表と候補者といった立場の違いから、処分や対応に差が出ることはある程度仕方ない面もあります」と前置きしつつ、「とはいえ、不倫を認めて一度は処分を受けた代表が、自ら国政復帰を誘っておきながら、党への逆風が強まるやいなや切り捨てるのは、『不平等』と言われても仕方ないでしょう」と結論付けた。
今回の山尾氏の公認取り消し騒動は、党内の意思決定プロセスや、過去の問題を抱える候補者の擁立基準、そして党代表自身の過去に対する扱いを巡り、国民民主党の信頼性に関わる問題として、有権者や支援者からの厳しい視線が向けられている。特に、玉木代表自身の過去と山尾氏への対応との間に見られる「不公平」とも受け取れる態度は、今後の党運営に影を落とす可能性もある。