(CNN) イスラエル軍用機がイランへの攻撃を実施した未明、その数時間前には、米国大統領ドナルド・トランプ氏が中東における全面戦争への懸念を強調し、そのような事態を回避したいと明確に述べていた。トランプ氏は、「彼ら(イスラエル)には踏み込んで欲しくない。なぜなら、それで事態が台無しになってしまうからだ」と語り、イランの核兵器開発を抑制するための外交努力を念頭に置いていた。
しかし、イスラエルが米国の関与なしに、そして米大統領が公に表明した意向に反して攻撃に踏み切ったという事実により、トランプ氏は今、政治的な難局に立たされている。もし彼が2期目の大統領に就任した場合、この問題は就任早々直面する最大級の試練となる可能性がある。
トランプ氏が語るように、今回の攻撃はイラン政府に対する自身の外交努力を水泡に帰させる恐れがある。政権高官が週末の新たな協議のためオマーンへ向かう準備を進めていた矢先の出来事であっても、この状況は変わらない。
この事態は、ただでさえ緊迫しているイスラエルのネタニヤフ首相との関係にも影を落とす。トランプ氏はネタニヤフ首相と数カ月にわたり意見が対立しており、攻撃の数日前にも自制を強く求めたばかりだった。
トランプ氏の前に現れた新たな世界規模の紛争の危機は、容易に解決できる性質のものではない。今回は、当該地域に駐留する数万人の米兵が戦闘に巻き込まれる可能性も含まれている。
現在のトランプ氏は、自身の共和党内で起きている意見の対立によって板挟みになっている状況と言える。多くの共和党議員は12日、即座にイスラエルへの強い支持を表明した。長年イランに対するタカ派として知られるリンジー・グラム上院議員は、SNS(旧ツイッター)に「ゲーム開始」と書き込んだ。
それでもトランプ氏はこれまでのところ、自身の党の強硬な外交政策を全面的に取り入れてはいない。特に2期目に関してはそうで、彼の政権を固める当局者たちは、バンス副大統領を筆頭に、海外への米軍の関与に対して非常に懐疑的な見方を示している。もし米軍が関与するとしても、それは米国にとって明白な利益が見込める場合に限られるという姿勢だ。
攻撃直後の段階で、トランプ政権は米軍の資産を使ってイスラエルの防衛を支援する用意があるとのメッセージを一切発していない。イスラエルに対しては今後、イランからの報復が予想される。バイデン前大統領は、昨年イスラエルとイランが交戦した際に、イスラエル防衛への支援を示唆していたこととは対照的である。米国の支援がなければ、イスラエルの防空システムはイランの大規模なミサイルやドローン攻撃に耐えられない可能性が指摘されている。
米政権による公式なメッセージの焦点は、中東地域にいる米国人職員の保護に置かれていた。同時に、イランに対しては、米国を緊張状態に引き込まないよう強い警告を発した。
トランプ氏があらゆる複雑な政治的原動力のより分けを行う中で、今回のイスラエルによるイラン攻撃に対する驚きは、トランプ氏自身にも、政権内にもほとんどなかったと見られる。
12日にホワイトハウスのイーストルームから発言した時点ですでに、トランプ氏と側近らはイスラエルによるイラン攻撃が近く行われる可能性があることを認識していたと、複数の情報筋が明らかにしている。トランプ氏本人は再三ネタニヤフ氏に自制を求めようとしていたが、それでも攻撃の実施は予期していたわけだ。
ドナルド・トランプ氏が演説する様子。イスラエルによるイラン攻撃は、彼の外交努力と中東政策に複雑な課題を突きつけている。攻撃が行われている間、トランプ氏はホワイトハウスのサウスローン(南庭)でのイベントに出席していた。その後、西棟に戻り、高官らと打ち合わせを行ったと、ホワイトハウスの当局者やその他の情報筋が明らかにしている。
その後、ルビオ国務長官が出した簡潔な声明は、米国と、攻撃におけるあらゆる役割との間に距離を置こうとする内容だった。「今夜、イスラエルはイランに対する単独での行動に踏み切った。我々は対イラン攻撃に関与していない。我々の最優先事項は地域に派遣されている米軍を守ることだ」とホワイトハウスが配布した声明は述べている。
ルビオ氏はさらに、「イスラエルからは、自衛のためにはこうした行動が不可欠だと聞かされていた。トランプ大統領と政権は、必要なあらゆる策を講じて我が軍を保護し、地域の提携国との緊密な連絡を保っている」と続けた。そして、「はっきりさせておこう。イランは米国の国益や人員を標的にするべきではない」と警告を発した。
型通りの表現によってさえ、この声明はイスラエルとその防衛への支援には明確に言及しなかった。その意味するところは明白である。これはあくまでもイスラエルによる紛争であり、トランプ氏が直接関与する紛争ではないというメッセージが強く打ち出されている。
本稿はCNNのケビン・リプタック記者による分析記事です。
参考資料:
CNN