イスラエルのネタニヤフ首相は13日、イラン国内の核施設や弾道ミサイル開発の拠点などを攻撃したと発表しました。これは、イランの核兵器開発を阻止し、イランが「引き返せない地点」に到達するのを防ぐための「イスラエルの歴史上、決定的な瞬間」であると強調しています。
これに対し、イランは同日、イスラエルに向けて100機以上の無人航空機(ドローン)を発射し、報復攻撃を実施。イスラエル軍はこれらをすべて領空外で迎撃したとしていますが、両国間の軍事的な応酬は今後も続く可能性が高く、中東地域における大規模な衝突への懸念が強まっています。
イスラエルによるイラン攻撃の詳細と被害報告
イランメディアなどの報道によると、イスラエルによる攻撃は13日未明に実行されました。首都テヘランや中部ナタンツなど複数の場所で爆発が相次ぎ、広範囲に被害が出た模様です。
テヘラン州だけでも78人が死亡、329人が負傷したと報じられており、イスラエル軍の攻撃がいかに大規模であったかを示唆しています。死者の中には、イランの最高指導者直轄の精鋭軍事組織であるイラン革命防衛隊トップのサラミ司令官や、イラン軍のバゲリ参謀総長など、幹部少なくとも20人が含まれています。さらに、イランの核開発に関わる科学者6人も死亡したと伝えられています。
イスラエルによる攻撃後、損傷した建物の前で活動する消防士(イラン、テヘラン、2025年6月13日、AP)
原子力庁によると、ウラン濃縮施設がある中部ナタンツも攻撃対象となり、核施設内で放射能汚染が確認されました。ただし、汚染は外部には漏れず、建物の被害も「表面的な損傷」にとどまったと説明しています。中部イスファハンやフォルドゥの核施設、南西部のブシェール原発は攻撃を受けなかったとのことです。
イスラエル軍は、200機以上の戦闘機が参加し、100カ所を超える標的を攻撃したと発表しており、イランの防空網に対しても「大規模な攻撃」を実施したと明らかにしています。イランメディアは、テヘラン市内の複数の場所から大きな煙が上がる様子や、集合住宅の一室が破壊された様子などを報じ、複数の女性や子供が死亡したとの報道も出ています。テヘランのイラン革命防衛隊の本部も攻撃を受けたほか、北西部タブリーズや西部ケルマンシャーなど、複数の都市で爆発が報告されています。
攻撃を正当化するイスラエル側の主張
ネタニヤフ首相は、今回の攻撃がイランの核・ミサイル開発計画の「中心」を標的としたものであり、「イスラエルの歴史上、決定的な瞬間だ」と改めて強調しました。イスラエル軍は、イランが秘密裏に核兵器に必要な部品を開発しており、すでに「引き返せない地点」に向かいつつあったと主張し、今回の攻撃はそれを阻止するための正当な行動であると説明しています。カッツ国防相は空爆後、イランからの報復攻撃に備え、イスラエル全土に緊急事態を宣言し、国民への警戒を呼びかけました。
米国の反応とイランの報復ドローン攻撃
今回のイスラエルによるイラン攻撃に対し、米国のルビオ国務長官は声明を発表し、今回の攻撃はイスラエルの「単独攻撃」であり、「米国は関与していない」と明確にしました。イスラエルは攻撃に先立ち、米国に対して「自衛のために必要な行動だ」と説明していたとのことです。
米国は長年イスラエルの主要な後ろ盾となってきましたが、今回の攻撃に対する直接的な賛否の言及を避け、一定の距離を置く姿勢を示しています。これは、イランが報復として中東地域の米軍拠点を標的とする可能性を懸念しているためとみられます。ルビオ長官は声明の中で、「イランは米国の拠点や人員を標的にすべきではない」と強く警告を発しました。
一方、大規模な攻撃を受けたイランでは、最高指導者ハメネイ師が「イスラエルは厳しい罰を受けるだろう」と公然と報復を宣言しました。この宣言からわずか数時間後、イランはイスラエルに向けて100機以上のドローンを発射し、報復攻撃を実施しました。イスラエルメディアは、これらのドローンはすべて迎撃され、イスラエル側に被害はなかったと報じています。イスラエル軍はさらに、イランが自国を狙っていた弾道ミサイルもイラン国内で破壊したと主張しています。
核開発問題の背景と交渉への影響
イランの核開発を巡っては、米国のトランプ政権が4月以降、断続的にイランとの間で交渉を行ってきました。米国はイランの核兵器保有を断固として容認しない姿勢を堅持してきましたが、イランの核開発制限と引き換えに、米国主導の対イラン制裁が解除される可能性があるという観測が出ていました。両国間の交渉はオマーンなどの仲介国を通じて行われており、15日にも6回目の協議が予定されていましたが、今回のイスラエルによる攻撃を受け、交渉の行方は極めて不透明な状況となりました。
また、国際原子力機関(IAEA)理事会は12日、イランが核兵器不拡散条約に基づく保障措置(査察)協定に違反しているとして、イランを非難する決議を採択したばかりでした。これに対し、イランは強く反発し、新たにウラン濃縮施設を稼働させると表明するなど、核開発をさらに進める姿勢を示していました。トランプ米大統領(当時)は攻撃があった13日、ソーシャルメディアに「イランは(さらなる攻撃で)何もなくなる前に、ディール(取引)を成立させなければならない」と投稿し、改めてイランとの交渉に意欲を示唆しています。
日本の石破首相のコメント
日本の石破茂首相は13日、イスラエルによるイラン国内への攻撃についてコメントを発表しました。「今回の攻撃は到底容認できるものではない。極めて遺憾であり、日本国として強く批判する」と述べ、事態の沈静化を求めました。日本政府は、中東情勢のさらなる悪化を強く懸念しており、関係国に自制を求めていく方針です。
今回のイスラエルによるイラン核関連施設への大規模攻撃と、それに対するイランの即時報復ドローン攻撃は、両国間の緊張をかつてないレベルに引き上げました。米国は関与を否定しつつも懸念を示しており、核交渉の行方も不透明です。幹部や科学者を含む多数の死傷者が報告される中、今後さらなる報復の応酬が続くのか、大規模な武力衝突へと発展するのか、中東情勢は極めて不安定な状況にあります。
(本記事は、AP通信、毎日新聞などの報道に基づいています。)