日本製鉄、USスチール買収 米政府承認へ「黄金株」で政治問題決着

日本製鉄は14日、米鉄鋼大手USスチール(USH)の買収計画が、米政府と締結した「国家安全保障協定」により認められたことを明らかにしました。これにより、日鉄がUSHの普通株式100%を取得する道が開かれました。計画発表から約1年半、政治的な難局を乗り越え、日鉄の持つ特許技術などをUSHに移転し、規模拡大で世界鉄鋼生産の約半分を占める中国勢に対抗する「日米連合」の実現がようやく固まった形です。

日本製鉄、USスチール買収 米政府承認へ「黄金株」で政治問題決着東京都千代田区丸の内に立つ日本製鉄の本社看板。USスチール買収計画の承認報道に関連。

買収承認の条件:米政府の「黄金株」

日鉄によるUSH買収は、米大統領選などを控え、全米鉄鋼労働組合(USW)の強い反対によって政治問題化していました。今回の決着は、米政府がUSHの経営の重要事項に拒否権を行使できる特殊な株式、いわゆる「黄金株」を持つことを条件とする国家安全保障協定を締結したことによるものです。日鉄は、買収後のUSHの企業統治、生産活動、通商対応において、米政府による一定の監督権限を受け入れることになります。

黄金株の具体的な拒否権の範囲や、国家安全保障協定の詳細な内容は現時点では明らかにされていませんが、米政府の介入権限は限定的であると見られています。日鉄は、米政府による計画の審査過程において、買収後の経営体制として既に、取締役の過半数を米国籍とすることや、経営陣の中枢メンバーを米国籍とする方針を表明していました。日鉄としては、今回の黄金株の権限は許容範囲内であり、経営の自由度を確保できると判断した模様です。

日本製鉄、USスチール買収 米政府承認へ「黄金株」で政治問題決着米国ワシントンのバス停に掲示された日本製鉄とUSスチール合同広告。両社の提携と買収計画を示す。

買収の戦略的意義と市場環境

世界の鉄鋼市場は、過剰生産を続ける中国の輸出拡大が市況を不安定にさせています。その中で、米市場はトランプ政権下で導入された高関税政策により、比較的安価な鋼材の流入から保護されています。また、電気自動車(EV)のモーターなどに不可欠な電磁鋼板のような、日鉄が特許技術で高い競争力を持つ分野は、今後さらなる需要拡大が期待されています。

USHを完全子会社化することで、日鉄は買収の主眼であった、自社の先進技術を100%活用して米市場を取り込み成長するというシナリオの基盤をようやく手に入れることになります。これは、日米間の産業連携を強化し、グローバルな鉄鋼産業における競争力の向上を目指す重要な一歩となります。

今後の課題とUSスチールの現状

しかしながら、その成長シナリオの実行は「いばらの道」となる可能性も指摘されています。買収計画が公表された当初、日鉄は世界の鉄鋼生産で4位でしたが、USHとの統合により3位に浮上する見込みでした。しかし、米政府による政治的な思惑から計画が長期化した影響もあり、世界鉄鋼協会の2024年の生産実績データでは、統合後も4位に留まる結果となっています。

これは、買収承認プロセスが停滞している間に、世界3位である中国の鞍鋼集団が生産を拡大した一方で、肝心のUSHの業績が低迷したためです。USHの2024年の生産実績は、前年の世界24位から29位へと大きく順位を下げており、2025年1~3月期決算でも2四半期連続の赤字を計上するなど、経営状況は厳しい局面を迎えています。

結論

日本製鉄によるUSスチールの買収は、米政府との国家安全保障協定締結により、長年の政治的ハードルを乗り越え承認されました。米政府による「黄金株」保有という条件付きではあるものの、日鉄は経営の自由度を確保しつつ、自社技術を米市場で展開するための重要な基盤を獲得しました。しかし、承認までの遅れによるランキングへの影響や、USスチール自身の業績不振といった課題も抱えており、今後、「日米連合」として世界市場で存在感を高めていくためには、これらの課題を克服し、着実に統合効果を実現していくことが求められます。

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https://news.yahoo.co.jp/articles/e64cb66a17c7616d93459f43dc91f8bf3ba0a196