中国による武力統一を支持する発言をしたとして、台湾に住む中国人女性たちが相次いで台湾からの退去を命じられる事態が発生しました。この動きは、数十万人に上る中国からの移住者やその家族が暮らす台湾社会に複雑な影を落とし、台湾と中国人の間の新たな摩擦を生んでいます。特に、台湾の中国人インフルエンサーによる武力統一支持発言とその後の追放は、大きな波紋を広げています。
「こんにちは。台湾省台北で暮らすヤヤです。」と語るのは、「ヤヤ」こと劉振亜さん。結婚を機に台湾に移り住んだ中国出身の女性で、中国のSNSで大きな人気を集めるインフルエンサーです。しかし、ヤヤさんがSNSに投稿した動画の内容が台湾内で大きな問題となりました。
劉振亜さんは動画で、「台湾を武力統一するのに、これ以上、理由はいらない」「朝起きたら中国国旗が、はためいてるといいのに」などと発言。これは中国による台湾侵攻を歓迎するかのような内容でした。この武力侵攻を支持する発言を受け、ヤヤさんは台湾当局から居留許可を取り消され、台湾からの退去を命じられる事態となりました。さらに、同様の理由で他にも2人の中国人女性が台湾からの退去を命じられています。
台湾で武力統一支持発言が問題視された中国人インフルエンサー「ヤヤ」こと劉振亜氏
台湾社会に波紋を広げる武力統一支持発言
結婚などをきっかけに台湾で暮らす中国出身者は、現在36万人以上いるとされています。中国政府は「台湾は必ず統一される」という考えを広めるための宣伝工作に力を入れており、今回のインフルエンサーの発言を受けて、一部の中国出身者がこうした宣伝工作に呼応しているのではないかという、強い疑いの目が台湾社会の中で向けられるようになりました。これは、台湾と中国の政治的な対立が、台湾国内の社会構造にも影響を与えている一例と言えます。
台湾社会に暮らす多くの中国人移住者、背景には両岸関係の緊張
移民二世が抱える複雑な胸の内
こうした状況の中、母が中国出身の移民2世である劉俊良さんは、複雑な思いを抱いています。彼の母親は中国・重慶出身で、劉さん自身は台湾で生まれ育ちました。実は、劉さんは問題となったインフルエンサー、ヤヤさんの会見に足を運んだことがあると言います。ヤヤさんの発言については「責任を取るべき」と考えている一方で、ヤヤさんに抗議していた一部の人々の過激な言動に恐怖を感じたそうです。
台湾で差別的な発言に不安を感じると語る、中国出身者を母に持つ移民二世の劉俊良氏
差別と不安、そしてアイデンティティ
劉俊良さんは、自身が感じた恐怖について語りました。「全員ではないですが、10人に3~4人は発言が、とても差別的、暴力的でした。不満は中国からの移住者全体に向けられているようでした。この感情の矛先が、ある日、私に向かうかもと思うと不安です」と、彼は現在の台湾社会における中国からの移住者への感情的な反発について述べました。劉さんは、台湾で中国からの移住者に対して昔からある種の拒否感が存在すると感じており、母親が中国大陸出身であるという事実を長い間、周囲に明かすことができませんでした。友人から母親の発音で出自に気づかれても、「違う」と答えていた時期があったと言います。大学での研究課題をきっかけに、自身のルーツや出自と向き合うことを決意した劉さんは、現在、自身を「移住者の背景を持つ台湾人」と認識しています。
今回の中国人インフルエンサーの退去命令は、単なる個人の問題に留まらず、台湾社会内に存在する中国からの移民とその子孫、そして台湾社会全体の間に横たわる、政治と結びついたデリケートな社会問題と、多様なアイデンティティをめぐる課題を浮き彫りにしています。