「日本維新の会」は7月の参院選・東京選挙区で前政調会長の音喜多駿氏を公認しましたが、党内ではその擁立を巡る深刻な問題が浮上しています。特に、著名投資家の村上世彰氏からの高額献金疑惑と、それが維新の掲げる「しがらみのない政治」の理念に反するのではないかという懸念が、党内での紛糾を引き起こしています。この問題は、参院選を前にした維新の足並みを乱す事態となっています。
音喜多氏は昨年10月の衆議院選挙で落選しており、地方組織を中心に今回の参院選での擁立に対する根強い反発がありました。そうした中で、新たな不安要素として浮上したのが、昨年10月の衆院選前、音喜多氏が村上世彰氏から500万円の献金を受け、さらに村上氏から「比例1位に推してほしい」との要望があったという情報です。
参院選東京選挙区候補の日本維新の会・音喜多駿氏、村上世彰氏からの献金疑惑が浮上
しがらみのない政治に反するのか
維新は党是として「しがらみのない政治」を掲げ、企業・団体献金を禁止しています。今回の村上氏からの献金は個人献金という形式ではありますが、村上氏が様々な企業に投資し大きな影響力を持つ人物であることから、維新関係者の一人は「村上氏から500万円ももらっていたとしたら、しがらみがないと思うほうがおかしい。党の理念を自ら否定するような行為だとさえ思います」と強い不快感を示しています。
このような情報が飛び交う中、日本維新の会は5月19日夜、緊急のオンライン会議を開催しました。国会議員、都議、区議、市議、支部長ら50名以上が参加。主な目的は音喜多氏擁立の意思統一でしたが、会議の席で都第29選挙区支部長の海老沢由紀氏が「村上氏からの500万円献金問題」について言及し、音喜多氏擁立への疑義を提起しました。
オンライン会議での紛糾
別の関係者によると、会議は大いに紛糾したといいます。海老沢氏は「500万円もの献金をした村上氏から、比例1位に名前を入れてほしいという要望が音喜多氏にあって、しかも音喜多氏はそれに応じようとした。その姿勢自体がしがらみではないのか」と厳しく音喜多氏の姿勢を糾弾しました。議論は夜8時から始まりましたが、11時になっても意思統一が図れず、会議は翌日へ持ち越されました。会議を主催した東京維新の会代表の阿部司衆議院議員が音喜多氏に直接事実確認を行うことになりました。
翌日のオンライン会議で、阿部議員は音喜多氏への事実確認の結果を報告しました。報告によると、村上氏からの500万円の献金は事実であるが、これはあくまで見返りを求めない個人献金であること。また、村上氏が維新の応援団として、知名度を生かして東京選挙区で比例1位に立候補するのはどうかという提案はあったものの、便宜が図られて村上氏が比例で1位になって出馬した事実はなく、献金が党方針や意思決定に影響を及ぼした事実はない、という音喜多氏の説明が伝えられました。
この日午後5時からは、日本維新の会代表の吉村洋文大阪府知事の応援演説会が予定されており、それに間に合わせる形で音喜多氏擁立の意思統一を図ることが必須となっていました。最終的には「党の方針」として、司会者主導で擁立決定の方向でまとめられたとのことです。その場の雰囲気をおもんぱかってか、海老沢氏や同調した人々からの反対意見はその場では出なかったといいます。
党内に残る不信感と政治資金報告書
しかし、会議後も党内には不信感が残ったままです。オンライン会議参加者の一人は「結果的に比例1位にしなかったからといって、党の方針に影響を及ぼしていないという説明に説得力はありません。だからこそ、あれだけ紛糾したのです。いまだ納得していない人は多いはずです」と、納得できない心境を明かしました。
FRIDAYデジタルは、音喜多氏が代表を務める「参議院東京都選挙区第1支部」の政治資金収支報告書を確認しました。その結果、2023年公表分の寄付者欄に「令和4年(2022年)1月27日・村上世彰・金額5,000,000」と記載されていることが確認できました。また、「音喜多駿後援会」の政治資金収支報告書では、2022年公表分に「令和3年(2021年)7月30日・村上世彰・1,500,000」、2024年公表分には村上氏の次女名義で「令和5年(2023年)3月8日・1,500,000」の記載も確認されています。昨年の衆院選前の献金については、今後明らかになる見込みです。
問われる説明責任
この“内紛”について事実確認を行うため、FRIDAYデジタルは日本維新の会に対し、「村上世彰氏及びその親族から500万円の献金を受け取ったのは1回だけか」「村上氏から比例1位に推薦するよう音喜多氏に打診があったか」「音喜多氏の公認が党方針から逸脱しないか」等の質問状を送りました。党からの回答は「企業団体献金はお断りし、個人献金は法令に則り拝受し公開している」「支援者からの政策提案や陳情はあるが、献金の有無で意思決定は左右されない」「候補者の公認は適正なプロセス」というものでした。音喜多氏本人からも同様の趣旨の回答が得られました。一方、音喜多氏擁立に疑義を呈した海老沢氏、そして村上氏にも質問状を送りましたが、期日までに回答は得られませんでした。
日本維新の会は、参院選を前に党内でこのような足並みの乱れに直面しています。音喜多氏は党の要職を務めた人物であり、東京選挙区の公認候補者です。高額献金と比例候補に関する疑惑が党内で不信感を生んでいる現状に対し、国民だけでなく、党内に対しても十分な説明責任を果たす必要があります。これは、日本維新の会が掲げる「しがらみのない政治」という存在理由そのものが問われる事態と言えるでしょう。