羽田空港で横行する白タク問題:警察官も嘆く違法営業の実態

赤色灯を回しながら、一台のパトカーが深夜の羽田空港第3ターミナルに接近してきた。そして国際線で到着する客を待っていた車列に横付けすると、ドライバーひとりずつに職務質問を始めた。営業許可を得ず、自家用車で違法にタクシー営業を行う「白タク」の取り締まりである。しかし、中国・天津から到着する予約客を迎えに来ていた白タク運転手のX氏は、平然と運転席でスマホゲームに興じていたという。

来日8年目、目つきこそ鋭いがよく笑いフランクな雰囲気を醸し出すX氏は、中華料理店を経営しながら副業として白タクを始めたのはコロナ禍を経た’23年からだ。今では白タク営業だけで「平均月収40万円。春節や国慶節前後の1ヵ月は100万円を超えることもあるよ」と豪語する。

この日、記者が都内でX氏に白タク事情について取材を行っていたところ、顧客から迎車予約が入り、そのまま同行取材することになった。羽田までX氏のハイエースに乗せてもらい、到着後に降車していたところ、冒頭の場面となった。X氏に職質の順番が回ってきた際、警察官が車外に出るよう指示すると、X氏は自らドアやトランクを開け、車内検査が始まった。

羽田空港深夜、警察官による白タク運転手への職務質問の様子。検挙の難しさが背景にある。羽田空港深夜、警察官による白タク運転手への職務質問の様子。検挙の難しさが背景にある。

深夜の羽田空港:警察の試みと白タク運転手の本音

X氏の悪運も尽きたかと思われたが、警察官は懐中電灯で照らして一通り車内を確認しただけで、X氏に敬礼して次の車両に向かった。警察官の後ろ姿に向かってX氏は「まいどご苦労様です~」と軽口を叩いた後、記者にこう言い放った。「あいつら、いつも(職質を)やってるけど、単なるオドシだから。友人を迎えに来たって言えばそれ以上、何もできないよ。規制はザルだね」。そう言うと、X氏は予約客を拾って走り去った。

検挙の壁:なぜ警察は手が出せないのか

ターミナルに残された記者が、職質を終えた警察官に、「明らかに白タクなのになぜ彼らを検挙しないのか」と尋ねたところ、警察官は悔しさを滲ませながらこう嘆いた。「検挙するためには有償で乗客を運送した事実を立証しないといけない。そうなると、車を尾行して客を降ろしたところを押さえて、客に『お金を払った』と証言してもらわないといけない。我々だけではどうにもできないんですよ」。

ターミナル内部での悪質な客引き行為

正規タクシー・ハイヤー業者の収益を脅かしているのは、SNSで客を取っている白タクだけではない。空港ターミナル内では、白タクドライバーたちによる、悪質な″客の横取り″が繰り広げられていた。北米からの到着便が集中する夕方の第3ターミナル2階では、白のYシャツにスラックス姿の中国語を話す男たちが、到着ゲートを見つめていた。互いに一定の距離をとって立っているが、時折、北京語で言葉を交わす様子が見られた。

巧妙な手口:観光客を狙う白タクの実態

白シャツ軍団は、それぞれ「Welcome Mr. LEE」などと、人の名前を書いたパネルを小脇に抱えており、一見、予約客を迎えにきたホテルのドライバーに見える。ところが不思議なことに、彼らが実際にそのパネルを掲げることはない。到着ゲートから出てきた外国人客に近づいては、片っ端から「タクシー?」と声をかけ、足を止める外国人客がいると、スマホの翻訳アプリを駆使して交渉に入るのである。

記者の目の前で、ひとりの白シャツ男が一組の欧米人カップルとの「商談」をまとめた。男が翻訳アプリで提示した条件は「銀座まで1万円」という、正規タクシーの通常料金より3割ほど高額なものだった。白シャツ男はカップルのキャリーケースを手に持ち、彼らをターミナルの外へと誘導。ターミナル前の車道に設けられた乗降スペースを通り過ぎ、どんどん進んでいった。途中、カップルは「どこまで行くんだ?」と訝しがったが、荷物を預けてしまった以上、白シャツ男について行くしかなかった。彼らが目指していたのはターミナルの最前方に路上駐車してあった、白ナンバーの大型ワゴンだった。

その周囲には複数の大型ワゴンが路駐していたが、ナンバープレートは白と運送事業者用の緑が混在していた。目を引いたのは車内に運転者はいないということ。ただ、近くには白シャツ軍団の一味とみられる男がひとり、立っており、ドライバーが客引きに行っている間、警察に駐禁切符を切られないよう見張りをしているようだった。東京国際空港ターミナル株式会社に客引き行為の是非について質すと、「羽田空港のターミナル内および構内においては、タクシーやハイヤー等の客引き行為を禁止しています」との回答があった。白タクか緑ナンバーかに拘わらず、客引き行為自体が禁止されている。そもそも白タク行為自体が道路運送法違反に問われる違法行為であり、モラルの問題だけでは済まされない。

広がる被害と日本のイメージ失墜の危機

これまで中国系白タクは中国人客をSNSなどで集客していたが、傍若無人な不正客引き行為により、今や訪日外国人のすべてが彼らのターゲットとなっているようだ。これにより、正規ドライバーの機会損失による被害は甚大である。さらに、白タクドライバーによるボッタクリ行為や交通事故などのトラブルが多発すれば、日本の対外イメージの失墜にも直結する。訪日客が食い物にされている現状を、野放しにするしかないのだろうか。

参考文献

  • FRIDAY 2025年6月20日号
  • Yahoo!ニュース (出典: FRIDAYデジタル)