「休火山」「死火山」という言葉はもう古い?日本の火山活動、京大教授が解説する真実

東日本大震災以降、日本列島は地震や火山噴火が頻繁に起こる「大地変動の時代」に入ったと言われています。こうした自然災害から身を守り、被害を最小限に抑えるためには、地学の知識が不可欠です。京都大学名誉教授である鎌田浩毅氏は、その著書『大人のための地学の教室』で、地学のエッセンスと災害から生き延びるための知識を明快に伝えています。この記事では、同書の内容に基づき、特に日本の火山の現状と未来、そして私たちが持つべき正しい火山知識について掘り下げていきます。

日本の火山風景(イメージ)噴火活動と自然災害に備える地学の知識日本の火山風景(イメージ)噴火活動と自然災害に備える地学の知識

使われなくなった「休火山」「死火山」

まず、日本の火山の分類について誤解が多い点から始めましょう。かつては噴火活動の状況に応じて「活火山」「休火山」「死火山」といった言葉が使われていました。しかし、現在はこれらの用語は公式には用いられていません。その代わりに「活火山」と、それ以外の火山という分け方が主流となっています。

この変更の背景には、防災上の重要な理由があります。「休火山」や「死火山」という言葉を聞くと、「もう噴火しない安全な山だ」と誤った安心感を抱いてしまう危険性があるからです。実際、過去に休火山とされていた富士山も、現在は活火山に分類されています。私たち専門家が「これから噴火に注意してください」と呼びかける上で、活火山にだけ注目を促す方が、より効果的な防災対策につながると考えられているのです。休火山や死火山という定義自体が曖昧で、いつ活動を再開するか予測できないため、このような分類は廃止されました。

日本の火山の今後:特定の地域に活火山がない理由

日本には全国に数多くの火山が存在しますが、地域によっては活火山の分布に偏りが見られます。例えば、近畿地方や四国地方には現在、活火山が存在しません。では、これらの地域は未来永劫、噴火の心配がないのでしょうか?

厳密には、何億年といった非常に長い時間スケールで考えれば、可能性はゼロではありません。地球のダイナミックな変動の歴史を振り返れば、大陸の配置すら大きく変化します。しかし、現在の地質学的状況に基づくと、今後1万年程度の期間でこれらの地域に活火山が新たに活動を開始する可能性は極めて低いと言えます。ここで言う「1万年」というのは、気象庁が定める「活火山」の定義、つまり「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」に基づいています。1万年という期間は人間の一生から見れば非常に長いものですが、地球の活動スケールでは比較的短い期間と言えます。

ただし、中国地方については、かつて活火山がないと言われることもありましたが、島根県の三瓶山や山口県の阿武火山群など、気象庁によって活火山として指定されている火山が複数存在することを付け加えておきます。したがって、中国地方には現在も活火山が存在し、監視対象となっています。

火山活動が示す地球の活動と未来

火山活動は、地球内部の熱を外部に放出する重要なプロセスです。地球の核で発生した熱は、マントルを介して地殻に伝わり、マグマだまりを経て最終的に噴火という形で地表に放出されます。火山活動が続くことは、地球が内部の熱を冷ましている状態、つまりまだ活動的な惑星であることの証と言えます。

もしこの火山活動が収束し、地球が冷え切ってしまったらどうなるのでしょうか?その場合、地球は文字通り「死の星」となる可能性があります。熱エネルギーが失われれば、地球内部の活動、例えばマントルの対流やプレートテクトニクスなども停止し、地震も起こらなくなるかもしれません。現在の金星や火星のような状態に近づくとも言えるでしょう。金星や火星は、地球に比べて内部の熱を失っており、火山活動やプレート運動がほとんど見られないと考えられています。

しかし、このような地球活動の停止は、私たちの想像を超える非常に長い年月を経て起こる現象です。そして、地球の未来を考える上で、火山活動の停止だけが唯一の要素ではありません。さらに長期的な視点を持つと、地球の外、つまり太陽の存在も無視できません。私たちの太陽は、約100億年の寿命のうち、既に50億年が経過したと言われています。今後、太陽の活動は徐々に大きくなり、やがて地球を飲み込むと考えられています。その過程で、およそ10億年後には地球上の水が蒸発し、生命の存在が困難になるでしょう。そして約40億年後には、地球は太陽に完全に飲み込まれて消滅すると予測されています。このように、火山活動の収束には非常に長い年月が必要ですが、それと同じような、あるいはそれ以上のスケールで、宇宙的な要因も惑星としての地球の運命に深く関わっているのです。

まとめ

東日本大震災以降、「大地変動の時代」という認識が広まる中で、火山活動や地震といった地学的な現象への理解は、私たち一人ひとりの防災意識を高める上で不可欠です。特に「休火山」「死火山」といった言葉の誤解を解き、現在の「活火山」という分類の意味を正確に理解することは、いざという時の備えにつながります。また、地球の火山活動は、私たちの想像を超える長い時間スケールで進行しており、さらには太陽の活動といった宇宙的な要因も、惑星としての地球の未来に影響を与えているという壮大な視点も重要です。地学の知識は、まさに迫りくる自然の脅威から身を守るための基盤となる力と言えるでしょう。

参考資料:鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』(本記事は同書の一部を抜粋・編集したものです)