ロシア経済の回復とエネルギー輸出:ウクライナ侵攻継続を支える資金源か

ウクライナは先日、「スパイダーウェブ」と名付けた大規模な無人機(ドローン)作戦を実行し、ロシア国内の戦略爆撃機資産に損害を与えた。さらに、ウクライナ軍はロシアがクリミア半島併合後に巨額を投じて建設したケルチ海峡橋も攻撃し、軍事的・心理的にロシアへ大きな打撃を与えた。

しかし、こうしたウクライナの試みとは裏腹に、ロシア経済は徐々に改善傾向にあり、ウクライナに対する攻勢を強める余裕を見せている。ロシア大統領府(クレムリン)は、ドナルド・トランプ元米大統領が仲介する停戦交渉案をも拒否した。経済の低迷を脱し、戦場で優位に立つことに全力を注ぐウラジーミル・プーチン大統領にとって、この景気改善は追い風となっている。

ロシアの通貨ルーブル紙幣。エネルギー輸出で潤う経済状況を象徴する。ロシアの通貨ルーブル紙幣。エネルギー輸出で潤う経済状況を象徴する。

経済回復の背景:制裁下のエネルギー輸出

ロシア経済を支えているのは、天然資源の輸出から得られる資金だ。この資金が、そのままロシアの軍事行動のための資金源となっている。つまり、欧米諸国が協力し、クレムリンへの資金供給ラインを断つべき時が来ていると言える。戦場に平和を取り戻す唯一の方法は、戦争継続に必要な資金をクレムリンから奪うことだからだ。

残念ながら、現状は真逆の方向に進んでいる。欧米による経済制裁が敷かれているにもかかわらず、ロシア産天然ガスの欧州向け輸出は、天然ガスパイプライン「トルコストリーム」経由で4月から5月にかけて10%以上増加した。これにより、2023年には70億ドル(約1兆円)の損失を計上していたロシア国営天然ガス企業ガスプロムは、今年第1四半期には予想外の84億ドル(約1兆2000億円)の利益を上げたのだ。

欧米の対応:制裁強化の検討と課題

欧州連合(EU)は6月10日、対ロシア追加制裁案を検討していると発表した。この案には、ロシア産原油の価格上限を現行の1バレル60ドルから45ドルに引き下げること、第三国によるロシアの銀行利用禁止、EU事業体による天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」利用禁止などが含まれている。仮にEU加盟国がこの追加制裁案を承認すれば、ロシア経済に影響を与える可能性は確かにある。しかし、加盟国の承認は保証されていない。実際、ハンガリーやスロバキアの政権はロシア寄りの姿勢を示しており、EUによる対ロシア制裁に公然と反対している状況だ。

一方、大西洋を挟んだ米国側では、ロシアがエネルギー産業から利益を得られないようにするための動きが進んでいる。ドナルド・トランプ元大統領に近い共和党のリンゼー・グラム上院議員は、2025年対ロシア制裁法案を提出した。この法案には、米企業によるロシアのエネルギー産業への投資や輸出の禁止、米国に輸入されるロシアの製品やサービスへの500%という高関税賦課が含まれる。さらに、ロシア産の原油、ウラン、天然ガス、石油製品、石油化学製品を販売、供給、輸送、購入する国に対しても、同様の税率の関税を課す措置が盛り込まれている。これらの措置は、ロシアの輸出力を弱体化させると同時に、欧州諸国を含むロシア産天然資源の輸入停止に及び腰な国々に対し、より積極的な対策を講じるよう圧力をかけるという二重の目的を果たすことを狙っている。

協調と効果的な制裁の必要性

ロシアの軍事行動を支える資金源、特にエネルギー輸出による収入を効果的に断つためには、欧米諸国間の緊密な協調と、より実効性のある制裁措置が不可欠である。米国とEUが連携して対ロシア制裁の強化に踏み切った場合、戦況を一変させる可能性を秘めており、最終的にはクレムリンを交渉のテーブルに着かせることにつながるだろう。現状のままでは、ロシアは経済回復を背景に戦争を継続する力を維持してしまうため、欧米には早急な対応が求められている。

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