ヴェローナ美術館で美術品破損:観光客の軽率な行動が招いた結果

2025年4月、イタリア北部ヴェローナにあるパラッツォ・マッフェイ美術館で、展示されていた美術品が観光客によって破損されるという事件が発生しました。この出来事は、美術館における来場者のマナーや、貴重な芸術作品をいかに保護すべきかという問題提起となっています。特に、監視カメラが捉えた一部始終の映像は、その軽率な行動が招いた結果を明確に示しています。

イタリアのヴェローナ美術館で破損したスワロフスキー製の椅子「ゴッホの椅子」と周囲の様子イタリアのヴェローナ美術館で破損したスワロフスキー製の椅子「ゴッホの椅子」と周囲の様子

破損した作品は、イタリア人アーティスト、ニコラ・ボッラ氏による「ゴッホの椅子」と題されたものです。この作品は、フィンセント・ファン・ゴッホが描いた椅子にオマージュを捧げ、数百個のスワロフスキークリスタルで表面が覆われています。その見た目の美しさとは裏腹に、内部は空洞でアルミ箔で構成されており、非常に繊細で壊れやすい構造となっています。

事件は、2人の観光客がこの椅子に腰かける“ふり”をして記念撮影を試みていた際に発生しました。そのうちの一人がバランスを崩し、椅子の上に倒れ込んでしまったのです。衝撃により、作品の脚2本と座面が大きく破損しました。さらに、2人は作品を破損させたにも関わらず、美術館のスタッフに何も告げることなく、現場から立ち去りました。

美術館の監視カメラ映像には、2人が警備員がいない隙を見計らって撮影をしようとする様子が記録されていました。パラッツォ・マッフェイ美術館は、2025年6月12日にこの映像を公式SNSで公開し、「全ての美術館の悪夢が、ここパラッツォ・マッフェイでも現実となった」と強い言葉で非難の声明を出しました。同館のディレクター、ヴァネッサ・カルロン氏は、写真を撮るために冷静さを失い、結果を考えない行動を取ってしまうことがあるとし、事故自体は故意ではない可能性を認めつつも、「無言で立ち去ったことは事故ではありません」と述べ、深い失望感を表明しています。

破損した椅子は、修復が可能かどうか当初は不確実な状態でしたが、警察、セキュリティチーム、そして専門の修復士たちの協力により、幸いにも元の姿を取り戻すことができました。現在、この「ゴッホの椅子」は再び美術館に展示され、来場者を見守っています。

パラッツォ・マッフェイ美術館は、今回の不幸な出来事を単なる事件報告として終わらせるのではなく、芸術への深い理解と敬意を広めるための啓発活動の出発点としたいと考えています。公式Facebookでは、「芸術はただ“見るもの”ではありません。愛すべきもの、守るべきものです」というメッセージを添え、美術館に展示されている作品への注意深い鑑賞と保護の重要性を改めて訴えています。この事件は、世界中の美術館やギャラリーを訪れる全ての人々に、芸術作品への敬意と、公共の場での適切な行動について再考を促す出来事となりました。

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