イスラム教徒妊婦の出産、日本で立ちはだかる「宗教の壁」…女性医師、ハラール食 医療現場の模索

日本におよそ35万人が住むイスラム教徒。信仰上の理由から、日本での生活では様々な困難に直面することがあります。特に、イスラム教徒の妊婦にとって、出産現場でも独自の課題が見えてきました。中東・シリア出身のエルハム・シャフルルさんも、日本で初めての出産を迎え、イスラム教徒としての信仰を守りながら、その「壁」に直面しました。病院探しから始まり、それは大きな課題でした。

女性医師への希望「7か所以上問い合わせ」

エルハムさんにとって、特に大きな課題となったのが「女性医師に診てもらえるかどうか」でした。イスラム教の考え方では、顔と手以外の部分は家族以外の男性に見られないようにするため、多くのイスラム教徒の女性は女性医師による診察や分娩を希望します。この条件に合う病院を見つけるのは容易ではなく、エルハムさんは7か所以上もの病院に問い合わせたと話します。

シリア出身のエルハム・シャフルルさん。イスラム教の信仰に基づき、女性医師による診察を希望し、病院探しに苦労した経験を語る様子。シリア出身のエルハム・シャフルルさん。イスラム教の信仰に基づき、女性医師による診察を希望し、病院探しに苦労した経験を語る様子。

食事制限「赤ちゃんが口にするものにも細心の注意」

また、イスラム教の戒律では豚肉やアルコールなどが禁じられているため、食事にも制限があります。特に赤ちゃんが口にするものには細心の注意を払う必要があります。エルハムさんが通う病院には、現状イスラム教徒向けのミルクがなかったため、病院と話し合い、原材料などを確認した上で、自分で用意しました。これは、信仰上許されるものを選ぶという、イスラム教徒ならではの配慮です。

イスラム教の戒律に基づき、食材やミルクの原材料を慎重に確認するエルハムさん。赤ちゃんのための食事にも配慮が必要。イスラム教の戒律に基づき、食材やミルクの原材料を慎重に確認するエルハムさん。赤ちゃんのための食事にも配慮が必要。

医療現場の対応「可能な限り希望に応えたい」

一方、病院側も課題を感じています。横浜医療センター産婦人科の栃尾梓医師は、「夜間に分娩になったとき、男性医師しかいない場合など、女性だけで対応するのはやはり難しくなります」と話します。それでも、日本で暮らすイスラム教徒が増加している現状を踏まえ、それぞれの希望に可能な限り応えていきたいという姿勢を示しています。

出産後の食事、そして模索

その後、再びエルハムさんを訪ねると、無事に元気な女の子が生まれていました。懸念されていた入院中の食事については、エルハムさんらの希望を聞いた上で、病院にあるもので対応しました。夫のサライジさんは、制限が書かれたカードを見せ、「ショートニング、アルコールなしと書いてあります」と説明。魚や野菜をメインとし、禁じられた成分を含まない、イスラム教に配慮した食事が提供されました。エルハムさんは「病院側に希望をすべて伝えていたので、よりスムーズに出産できました」と、コミュニケーションの重要性を語りました。

入院中に病院から提供された、イスラム教に配慮した食事。夫のサライジさんが食事制限の内容が記されたカードを示す。入院中に病院から提供された、イスラム教に配慮した食事。夫のサライジさんが食事制限の内容が記されたカードを示す。

「宗教の壁」を越え、イスラム教徒の妊婦が日本で安心して子どもを産める環境を整備するための模索は、妊婦側と医療現場双方で続いています。

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