元経済産業省官僚で、慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏が、来る7月の参院選に自民党から出馬することを表明した。6月6日、自身のX(旧Twitter)で自民党の公認を得たことを報告し、YouTube動画でその真意を語った。長年、歯に衣着せぬ物言いで政策提言を行ってきた岸氏の与党からの出馬は、政界に一石を投じることとなりそうだ。
岸氏は出馬理由について、「野党には政権担当能力がない」と断じつつ、「自民党もだいぶ問題は多いが、そこを立て直す」ため、あえて与党である自民党からの出馬を選んだと説明した。出馬決定後も「岸節」は健在で、現在の自民党に対し「支持率が低いことがすべて。国民の信頼を失っているのに、その原因をわかっているとは思えない」と厳しく指摘する。
野党の政策については、「物価高対策ひとつとっても、消費税の半減なんてありえない」「選挙目当てのできの悪い政策しかやれない」と批判。それに対し、自民党は「少なくとも政権運営能力はあるし、正しい経済政策を実現できる可能性はある。野党と比較すれば自民党のほうが全然まし」との認識を示した。
岸博幸氏が見る自民党の現状の問題点
岸氏は、現在の自民党の体質にある問題点を具体的に3点挙げている。
党内議論の停滞
まず一つ目は、「党の中で政策をめぐる喧々諤々の議論がおこなわれなくなったこと」だ。郵政民営化の頃のような、若手議員も含めた活発で白熱した議論が現在は見られないと指摘。石破氏の政策に不満を持つ若手がいても、SNSでつぶやくばかりで幹部に直接意見をぶつける者がいない現状を問題視している。
国民の声に耳を傾けない姿勢
二つ目は、「国民の声を聞かなくなってしまっていること」を挙げる。典型的な例として、高額療養費制度の自己負担増大案を当初進めようとしたが、批判を受けて撤回した件に言及。最初から国民の声に耳を傾けていれば、このような事態は避けられたはずだと指摘した。
国民への説明不足
三つ目は、「国民への説明もちゃんとしなくなった」点だ。現在議論される政策、例えば野党が掲げる消費税減税を自民党が否定するのであれば、「なぜ減税しないのか、丁寧にわかりやすく説明すべき」だと強調。岸氏自身の方がよほどわかりやすく説明できると述べるほど、現在の説明姿勢に疑問を呈している。
こうした問題点を変えるために、外から評論家として物申すだけでなく、「自民党内に入って、なかから変えたほうが早いだろう」というのが、岸氏の出馬の根底にある考えだ。「自民党をぶっ壊す」というよりは、「自民党の劇薬になります」と言い切り、党内改革への強い意欲を見せた。
「劇薬」として自民党へ投じる覚悟
政治家としてのスタンスも型破りを目指す。当選しても「普通の政治家をやる気は全然ない」と語り、これまでのテレビ出演などでのやり方を変えず、白黒はっきりさせて「ケンカを売っていきたい」意向だ。「個人的に目指す目標は、『上品なハマコー』という感じ」と独特の表現で自身のスタイルを説明した。特に石破氏に対しては、役人の案に強く意思を示していないように見えるとし、「まずは石破さんに『それじゃダメでしょ』と迫っていきたい」と名指しで挑む姿勢を見せた。正しい政策を考える自民党の若手議員が「みんなおとなしい」現状を変えるため、とにかく党内で「ケンカを売りまくって、暴れたい」と語る。
参院選出馬を表明した元経産官僚で慶応大教授の岸博幸氏
2023年1月にがんと診断され、余命宣告を受けたという岸氏。自身は残りの人生を8年と考えている。今回の出馬には、同じく余命宣告を受けながらも執筆活動に励んだ経済学者、森永卓郎氏の生き様も影響しているという。森永氏が病と闘いながらも社会に貢献しようとした姿を見て、「病気でつらいからとゆったりするのは、なんだかかっこ悪く思えてきて。森永さんに負けないように、頑張って世の中のためになることをしないと、と思ったんです」と語った。
自民党からの参院選出馬に向け準備を進める岸博幸氏の選挙事務所の様子
このような意識が、「今は完全にケンカモード」である所以だという。「そうでなければ、こんなに支持率が低いときに自民党から出ませんよ」と笑いながら付け加えた。岸氏の「ケンカ」は、まず参院選での戦いから幕を開ける。
出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/3e42721dbd9ac089ab3fa87345d6d8eb069801e7