ロサンゼルス市内で、不法移民の大量逮捕に反対する住民たちが市警察と衝突した。メキシコ国旗がはためく「移民の街」で、米国移民税関捜査局(ICE)による摘発強化の動きが強まる中、何が起きているのか。
[ロサンゼルス連邦ビル前で不法移民逮捕に抗議する人々と対峙する州兵・警察官]
「父にはICEが家に来ても絶対に玄関の扉を開けないでと言っています」。こう語るのは、フォトジャーナリストのエロイサさん(35歳)だ。現在、トランプ政権の指示により、ロサンゼルスで不法移民の大量摘発がICEによって行われている。白いバンで農場や工場、量販店などに現れ、対象者を拘束し逮捕する手法に対し、ロサンゼルスの住民たちがデモを行い、警察との衝突が発生した。
エロイサさんは12歳の時、親に連れられメキシコと米国の国境を越えた。ブローカーの車の中で花柄の毛布を頭からすっぽり掛けられ、「息をするな」と言われて入国したという。16歳未満で米国に不法入国した若者への救済策として、オバマ政権が2012年に制定したDACA制度(若年移民に対する強制送還猶予措置)によって、彼女は合法的な滞在資格を得ることができた。しかし、彼女の父親にはこの救済措置がなく、23年間不法滞在の状態が続いている。
「なぜ不法滞在者は、一度メキシコに帰って正式なビザを取得してから再入国しないのか?」。トランプ大統領の支持者たちからはこのような意見が聞かれる。しかし、メキシコで段ボールと木でできた家に家族と住み、食べ物も満足にない貧困生活を記憶しているエロイサさんは、その選択肢は考えられないと断言する。もし彼女の父親がメキシコに帰国した場合、不法滞在に対する罰則として、最低10年間は米国への再入国が認められず、その後もビザを取得できる可能性は低いのが現状だ。
「父は幼かった私と弟たちを養うため、必死で働き、米国に税金も払ってきました。我が子に人間らしい生活をさせたい一心だったのです」とエロイサさんは語る。彼女と同じ境遇の若者は米国に約53万人おり、その多くが不法滞在の親を持つ。
ちなみに、人口約1千万人のロサンゼルス郡には約100万人の不法移民がいるとされ、そのうち79%以上がヒスパニック系だ。「滞在許可がない移民の大多数は、逮捕されることを恐れて抗議デモや暴動には決して近づきません。スピード違反や駐車違反さえしないよう、細心の注意を払って生活しています。特に肌の色が濃い人々は」とエロイサさんは指摘する。今回のデモの主な参加者が不法移民ではなく、米国市民であったとすれば、なぜこれほどまでの規模になったのだろうか。それを読み解く一つの鍵となるのが、ICEに課せられた「1日3千人」という逮捕の数値目標だと言われている。この目標達成に向けた圧力により、摘発の範囲や頻度が増加し、それが移民コミュニティだけでなく、彼らを支援する米国市民の反発をも招いている可能性が考えられる。
今回のロサンゼルスでの衝突は、米国の複雑な移民問題を浮き彫りにしている。不法滞在者の現状、彼らを支える家族の苦悩、そして政権の移民政策が地域社会に与える影響は、今後も注視していく必要がある。
参照: https://news.yahoo.co.jp/articles/328384474fa562448fc4d2f4f45b1850fc786348